Chris Carrabba(クリス・ギャラハー)_exDashboard Confessionalダッシュボード・コンフェッショナル
『Covered In The Flood(カヴァード・イン・ザ・フロード)』

Chris Carrabba(クリス・ギャラハー)名義で11年に発表されたカヴァー・アルバム。ギャラハーのソロプロジェクトであるはずのDashboard Confessional(ダッシュボード・コンフェッショナル)ではなく、本人名義で発表された。その理由は分からない。だがダッシュボード・コンフェッショナルと比べて遜色のないクオリティーの作品に仕上がっている。アルバムはダッシュボード・コンフェッショナルと同様のアコースティックギター1本に、チープなデジタル音が絡む展開。カヴァーしたアーティストは、リプレイスメンツからREMなどのオルタナ系アーティストから、パワーポップの先駆者、ビッグ・スター、インディーロックのロング・ウィンターとアーチャーズ・オブ・ローフなどのロック系。それとカントリーのガイ・クラーク、ウエスタンのジャスティン・タウンズ・アール、フォークのコリー・ブラナンなどの、アメリカ伝統音楽の担い手たち。アメリカルーツ音楽と自らのルーツ、2つの要素をカヴァーしている。

 

ロックミュージシャンのカヴァーでは荒々しい弾きかたで力強く歌い、伝統音楽は技巧的な演奏でやさしく丁寧に歌っている。とくに印象深いのはREMのカヴァーの“イッツ・ザ・エンド・オブ・ワールド...”。そこでは枯れた歌声や、徒労に終わるかもしれないがそれでも自分を信じて進んでいく、といった2重の感情を含んだマイケル・スタンプの歌い方をまねている。そこにREMへの強いリスペクトを感じるし、愛情が伝わってくる。

 

それにしてもチープな録音とデジタル音が、とても味わい深くいい作品に仕上がっている。彼の作品全般を通していえることだが、莫大なお金をつぎ込んで最新の機材を導入し、多種多様なミュージシャンや敏腕プロデューサーを採用して、アレンジ展開がこったアルバムほどいまいちの出来だ。逆にアコースティック1本で、アナログのチープな録音で、感情の赴くままシンプルで装飾のない作品ほど、優れている。

 

その理由はおそらく彼の魅力が歌声にあるからだろう。彼の長所である透き通った声が、リラックスした状態や、ぶんばるように力強く歌っているときほど、長所を発揮している。透明で力強い歌声を最新の機材を使ってクリアーにしてしまうと、暑苦しさやくどさといった余分な雑味をふくんでしまう。チープな録音が嫌味を消してくれるのだ。

 

個人的には好きな作品だ。ものすごく楽しんでいる姿勢が伝わってくるし、肩の力を抜き、感情の赴くまま歌っている。やはり彼は、シンプルな作品ほどいい。