First Temple (Dig) Closure in Moscow Equal Vision Records 2009-05-04 |
09年発表のデビュー作。これはすばらしい。正直、ここまで化けるとは思わなかった。ひさびさにいい作品に巡り合った。ぼくはパンクとメタルの境界線がないゼロ世代と呼ばれるバンドに、関心が持てなかった。だれだれのリフやフレーズを切り貼りしたようなばかりで、元ネタがばればれだったから。でもこの作品は違う。アジア音楽から、スラッシュ・メタル、アット・ザ・ドライブ・イン系のエモ、マーズ・ヴォルタ系のプログレ、メロディック・エモ、サイケ、マタドール、ソウル、ジャズ、ファンク、ダンスミュージックにいたるまで、いろんな要素が詰まっている。しかも一つひとつがめまぐるしく変化し、元ネタが何かわからない。まさにカオス。
そんな彼らのサウンドとは、ポストハードコアに分類されている。ものすごくおおざっぱに言うなら、ブラフマンや9ミリ・ パラブレム・バレットと同類項に属し、別の角度からアプローチをしたサウンドだ。
しかしは彼らしかありえない新しいサウンドを展開いる。アジア音楽のエキゾチックなメロディーを中心に、スラッシュ・メタルの性急なスピード、歪なファンクのリズムが渾然一体となったサウンドだ。そこあるのは、インド・エスニック音楽の、妖艶な美しさと死を連想させる不気味さ。神秘的なメロディーが穏やかな安らぎを紡ぎだし、性急なスピードのドラムとデジタル音が躁病的にせわしない焦燥感を煽っていく。そこにはまるでいかがわしい宗教のような狂気とやすらぎを感じる。信仰すれば来世での幸せが約束されるとじているような安堵感。その事実を第三者的な立場から見ることによって感じる狂気。死ぬことに対して恐怖心がなく、穏やかさややすらぎを求めて死んでいくような類の狂気だ。彼らは暴力的なサウンドと組み合わせることによって、その安らぎを意図的に狂気と悟るように歌っている。
その歪さは、ジャケットの蛾の絵からも感じ取ることができる。蛾は死後の世界へ魂を導く存在として信じられている文化があるそうだ。死後の世界へと旅立つ魂に、この世の真実を最後に伝える役目も担っている。そこには鱗粉を撒き散らしながら夜空を舞い、天国への道を作る毒蛾のように、華麗で甘美な毒々しい魅惑に満ちている。エスニックな華麗さと焦燥感や激しさや狂気、歪さがめまぐるしく変化するカオティックなサウンドは、09年のベスト3に入る、すばらしい作品だ。