Catch Without Arms Dredg Interscope Records 2005-06-23 |
05年に発表した3作目。今作ではゴツゴツした聞きづらさがなくなり、ポップに聴きやすく変化した。大衆受けするサウンドに変化したため、ビルボードで124位を獲得した。結果、彼らの出世作となり、最も売れた作品だ。
今作では、ソニックユースのようなノイジーなギターに、ヴァーヴのようなブリットポップが加わった。まるで蜃気楼のようなまぼろしを見ているかのようなスライドギター。音のない空間の隙間が寂寥感に満ちているピアノの音。神経質なまでに繊細でナイーブなギターメロディー。流れる川のようになめらかで憂いを含んだ美しい声のボーカル。心を癒してくれるようなアンビエントなサウンド。そのサウンドは寂しさや悲しみに満ちている。だがその悲しみが叙情的なまでに美しい。まるで海に沈んだ海底都市を見ているような手付かずの無垢と、一時の楽園の幻想を思い描いているような美しさだ。ビューティフル・エモの先駆けといえるような美しいサウンドだ。
今作では、サウンドも歌詞もコントラスト(対照)がコンセプトになっている。ここでいう対照とは、天使と悪魔、欲望と犠牲と奉仕、愛と憎しみなど。しかも二部構成になっていて、1曲目の“オード・トゥ・ザ・サン”から7曲目までの“サング・リアル”が第一部で、8曲目の“プランティング・シードルズ”から12曲目の“マトリショーカ”までが第二部となっている。第一部は上記した内容の対照。第二部は、麻薬常習者や別れた彼女についてなど、他者を通した俯瞰的な内容が目立つ。相克する内面を歌詞にした第ー部と、三人称で外の世界を俯瞰した第二部。第一部の2面性ある内面の対照。一部と二部を通じた外と内との対照。2重の意味で、正反対の合わせ鏡のようなコントラストになっているのだ。アートワークにも意味があるようだが、その絵は抽象的で真の意味が分かりづらい。この抽象的な絵は、直接的および間接的に、歌詞やサウンドに関係しているようだ。アルバムが発表される数週間の間、公式ウェブサイトで、いろいろな手がかりが提示された。いろいろなヒントをサイトで提示する手法は、まさにデヴィット・リンチの映画のようだ。
個人的な感想を言えば、前作と比べると、この作品ではサウンドの難解さが取り払われている印象を受けた。サウンド的には抽象性と、精神の混乱のようなカオスがなくなり、一方向ですっきりとまとめられている。ビューティフルなサウンドで統一されて、感情のベクトルも曲によって悲しみや寂寥などの一方向に定められているため、聴きやすい。個人的には、わけの分からない混沌としたカオスが彼らならではの個性だと思っているし、好きだった。だが今作は圧倒的に聴きやすいし、ビューティフルな芸術性がある。それも悪くないし、いい作品だと思う。