Pariah the Parrot the Delusion (Dig) Dredg Dredg 2009-06-08 |
05年に発表された4作目。前作『キャッチー・ウィザウト・アームス』は、エモ、プログレ、オルタナが混ざったビューティフルなロックなサウンドで、彼らの最高傑作だった。ロックバンドとして彼らの目指していたサウンドが完成したためか、今作では前々作の混沌としたサウンドを、さらに突き詰めている。もはやロックギターのサウンドではない。ビーチボーイズの『ペット・サウンズ』のような混沌とした曲から、ユートピアやピンク・フロイドが混ざったプログレ、 ファンク、アメリカンポップの曲などがあり、かなり雑然としている印象を受ける。
今作では、イギリスとインドで活躍する小説家で、『悪魔の詩』の作家でも知られるサルマン・ラシュディのエッセ、『イマジン・ノー・ヘヴン』からインスピレーションを受け、制作されたそうだ。その本の内容は、「6億人が現在でも宗教紛争に巻き込まれている、その宗教は信仰深い人が多い。個人的が慰めるという意見では、その宗教は名前で行われた悪を補うより以上のことをしている。また、人間の知識が成長するのに従って、私たちがどうここに到着したかに関して、いままで話されたあらゆる宗教話が、全く間違っていることが明瞭になった」。と、書かれている。ぼくの英語力が乏しくこの作品が宗教批判をしているのかどうかはわからない。個人的には宗教批判に影響を受けた作品ではないと信じたい。ならこのエッセのどこに影響を受けたのかといえば、宗教を超越した超常現象や、宇宙や大自然など人間の領域を超えた形而上的な神秘主義に影響を受けたのだろうと思う。実際ムスリム社会に対して悪い印象のあるサルマン・ラシュディの小説だが、彼が書く物語の手法は、魔術的リアリズム(日常にあるものと日常にないものが融合した作品)と呼ばれ、不可知論がテーマになっている。
日本語で『社会ののけ者、オウム(他人の言葉を繰り返す人)、妄想』と名付けられた今作は、奇妙さがテーマになっている。サウンドのベースになっているのは、ビーチボーイズの『ペット・サウンズ』。複雑なアレンジが万華鏡のようにくるくるとめまぐるしく変わる展開。たとえば1曲目の“プライアン”では、おとぎの国のようなメルヘンなサウンドがエピローグに進むにつれ爆撃音のような破壊的なギターサウンドに替わる展開で、“ライト・スウィッチ”では、帝政末期を彷彿させる絶望的に暗いオルガンの音から、ギターとボーカルのみミニマムな展開に。そして後半に進むにつれ、アメリカン・ポップスの要素が強くなってくる。上品なピアノの切ない曲やクリスマスのような神秘な曲もある。まるで、おもちゃ箱のように、不安や切なさメランコリー、憂鬱、喪失といった感情が乱雑に詰め込まれている。メルヘンで幻想的な傾向にあるが、総じてもの哀しく美しいサウンドだ。前作のロックギターのサウンドを1,2曲残しながらも、ポップスやアンビエントなどを貪欲に取り入れ、厚みの増した成長を遂げている。ロック的なカタルシスを求めている人には物足りなさを感じるかもしれないが、いい意味で成長している。これはすばらしい作品だ。