Slip Quicksand Fontana Island 1993-02-09 |
まぎれもなく最高傑作。93年に発表された1枚目のフルアルバム。前作に確立したハードコアにストップ&ゴーや、ベースや変則的なドラムのリズムをブレンドしたサウンド路線を、さらに練り上げ、磨きをかけた。技巧的で実験性が顕著に目立った前作と比べると、ここではしっかりとした世界観を確立している。
このバンドもFARと同様に、エコー&ザ・バニーメンの暗く妖艶な美しさを、ハードコアに落としたバンドだ。だが、FARとは違い叙情性や美しさ、か弱さといった要素がまったくない。
そこにあるのは地の底で静かに瞑想をしているような暗い落ち着き。絶望に悶え苦しむようなハードコア特有の負のエナジーはない。絶望や切迫感をすべて受け入れ苦痛に身をゆだねているような冷静さが支配しているのだ。
こんな世界観は、いまも当時もクイックサンドにしかありえない。オルタナティヴの自由な空気が、NYの淀んだ空気と合わさって結晶化した奇跡の一枚。まさに傑作といえるだろう。