Frank Turner(フランク・ターナー )
『Love Ire & Song(ラヴイレ&ソング)』

Love Ire & SongLove Ire & Song
Frank Turner

Epitaph / Ada 2009-07-20
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イギリスではフォークパンクと呼ばれているフランク・ターナの08年発表の2枚目。彼らの本領を発揮しだしたのは、この作品から。今作もアコースティックギターを中心に、イギリス伝統音楽を奏でている。そこにギターロックな曲やアラビアンな曲やパーカッションやピアノなどの楽器が加わり、1曲1曲が明確に違いの分かる、バラエティー豊かな作品に仕上がった。

 

今作では、前作の落ち着いた雰囲気よりも、熱さやウェットな感情、エモーショナルを重視している。3曲目の“フォトセンセテス”は、フォーク・ダンス・パーティーのような緩やかな楽しい雰囲気で、4曲目の“サブディテュート”では振られた彼女へ悲しみが漂っている。6曲目の“ラヴイレ&ソングス”は熱く希望に満ちたすがすがしいが漂い、9曲目の“ロング・ライヴ・ザ・クイーン”は世の中のあわただしさと喧騒に満ちている。悲しみから歓び、情熱にいたるまで、じつに表情が豊かだ。

 

英語力の乏しいぼくとしては、ストレートな感情を歌っているように思える。しかし、どうやら真意はまったく違うところにあるようだ。日本人には分かりづらいが、この作品は矛盾した感情をサウンドに結び付けている。歌詞は皮肉とアイロニカルに満ち、たとえば“フォトセンセテス”では、パンクを棄て、安定した生活を送っている友人への皮肉な気持ちを歌い、“サブディテュート”では相性の相違や冷めてしまった恋愛感情ではなく、たかが信じるイデオロギーの違いのためだけに分かれてしまった彼女への悔しさを歌っている。“ラヴイレ&ソングス”では、デモを弾圧する警察のことを批判し、希望を打ち砕かれたときの敗北感はアスピリン錠では鎮痛することができないと歌っている。

 

そして特筆すべきなのが、“ロング・ライヴ・ザ・クイーン”だろう。そこでは乳がんに患い死亡した友人をテーマに取り上げている。歌詞の内容は、余命半年を告げられた彼女と半年間過ごし、忙しかった日々の思い出。たしかにそこには悲しみに満ちた感情はまったく存在しない。表面上はシャウトとして感情が高ぶっている。だが曲の最後に、祭りのような喧騒が終わり、ひとり部屋でぽつんといるような静けさと寂寥が漂っている。ああもう二度と彼女との騒がしかった日々は戻ってこない、自分が失ったものは計り知れなかったのだと、痛感させられるような喪失感だ。あえて悲しみという感情を隠しながらも、死というものに対する受け止め方を、別の角度からアプローチしている。

 

そこにイギリス人らしいウィットの利いたブラックユーモアを感じるし、皮肉に満ちながも、実直でまっとうとした道徳観を持った彼の性格が生々しく伝わってくる。アコースティックという制約されたサウンドのなかでも、多彩なジャンルの音楽を取り入れているし、歌詞にもフランク・ターナーにしかありえないオリジナルティーがある。これはすばらしい作品だ。