The Gaslight Anthem(ザ・ガスライト・アンセム)
『Handwritten (ハンドリトゥン)』

HandwrittenHandwritten
Gaslight Anthem

Imports 2012-07-23
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12年に発表された4作目。前作はプレッシャーから開放され、開き直ったような爽快さがあり、前々作は労働者階級のような泥臭い男くささのなかに、繊細なナイーヴさがちりばめてあった。それらの作品と比べると、一番パンクをしている。ここでいうパンクとは、攻撃的でアグレッシヴなサウンドのことだ。

 

彼らの歌詞の内容は、初期のころから一貫して物語風に描かれているが、今作ではデヴィット・リンチの映画『マルホランド・ドライブ』にインスピレーションを受け制作されている。この映画自体、抽象的で解釈は人それぞれに異なるが、彼らなりの見解は、細部の細かいディティールを追及した60年代の古きよきアメリカの情景と、不条理な愛の世界。たとえば“45”では、レコードを裏返すという行為から、60年代のオールディーズのような匂いを感じることが出来るし、“ハンドリトゥン”では、パソコンが携帯メールが主流になり、失われてしまった手書きの大切さを歌っている。そこでは手書きの文字でしか伝わらない想いや温かみ、その人ならではの字体が、すべての思い出を作っていくのだと訴えている。文明の進化によってすべてが便利になったが、その分、古きよきものが失われた。彼らには、60年代のサウンドやレコードといった音楽機器、手書きといった古きよき伝統を、廃れず守っていこうという姿勢があるし、そこには朴訥で不器用な人間の温かみを感じる。初期のころはサウンドだけにとどまっていたが、今作では手書きといった深い部分まで掘り下げ追及している。しかも歌詞にその時代の空気と細かいデティールを取り入れながら、60年代の郷愁への憧れを熱く衝動に満ちたサウンドに乗せ、その想いをぶつけている。

 

今作もクラッシュやソーシャル・ディストーションに、ブルース・スプリングティーンやファンクやブルースの要素を加えたサウンドがベースになっている。そこに『愛しのレイラ』のようなブルースのイントロが加わった。曲の構成も低音から高音へと音域が変わり、サビに向かって感情が高ぶっていく。いままでの作品の中で一番練られているのではないか。ただあえて欠点を挙げるなら、全体的にスローテンポな曲が多く、シリアスさも希薄で、やや緩慢に感じた。個人的には1,2曲目のようなスピーディーで衝動に満ちたパンクの曲を増やしてくれれば、最高傑作となりえる作品になったと思う。