キッカー ゲット・アップ・キッズ Tugboat Records 2018-06-06 |
じつに7年ぶりとなるEP。THE GET UP KIDS(ゲット・アップ・キッズ)といえば、JIMMY EAT WORLD(ジミー・イート・ワールド)とならび、ポップエモの代表的なバンドとして知られている。だがそのサウンドは実験的で、アルバムを発表するたび、ローファイなギターロックなど、色々なジャンルの音楽を取り入れていた。
とくに再結成後の11年に発表されたアルバム『There Are Rules(ゼア・アー・ルール)』では、Bauhaus (バグハウス)などのゴズにガレージを合わせたようなサウンドで、アグレッシヴで暗くノイジーで憂鬱な世界観を追求していた。実験的に次々と新しいことに挑むチャレンジ精神こそ感じられたが、そこには本来ゲット・アップ・キッズの魅力であった、失恋や次のステップに踏み出すことのできない未練や尻込みした感情を歌っていた姿はなかった。ダークでどす黒いアルバムを発表することによって、ゲット・アップ・キッズ像を過度に求めるファンへのイメージを打ち壊す、辟易とした態度がうかがわれた。
そして今作ではJAWBREAKER (ジョーブレイカー)などの初期エモを彷彿とさせる作品に仕上がっている。感極まったボーカル、パワフルで中部の放牧とした広大で乾燥した大地をイメージさせるノイズギター、キャッチ―なキーボードのメロディー、そこにはエモーショナル・ハードコアと呼ばれていたころの古い世代のエモを感じさせる。90年代のレコーディング機材がまだ発達していなかったころの、クリアーでないノイズまみれの音の悪さのなかに、パワフルな熱意が詰まった、人間味にあふれた味わい深さが魅力だったサウンドだ。
エモ全体の原理までさかのぼったサウンドには、現在では失われてしまった、むかしの古きよきものを取り戻そうとする姿勢がうかがえる。とくに彼らが否定していたエモと呼ばれることへの辟易とした感情が、誇りへと心境が変わってきている。NMEのインタビューで『エモという言葉にはプッシー(弱虫)な意味が強く、エモと呼ばれることに侮辱を感じていた。だが現在では、Modern Baseball(モダン・ベースボール)やThe Front Bottoms(ザ・フロント・ボトムズ)などの第四の波と呼ばれるエモ・バンドが出てきて、ゲット・アップ・キッズから影響を受け進化してきたと公言している。ゲット・アップ・キッズがエモのレガシーとして語られていることに誇りを感じる。』と語っていた。
さすがに歌詞は20代の恋愛経験ような、感傷的でデリケートな心情は歌っていない。“Sorry”ではジムの奥さんと子供についてなど、中年男性のごく平凡な日常を歌っている。そこには小さな幸せやささいな至福感が漂っている。
格別ファンの期待を応えようとする姿勢もなければ、裏切るよな仕草もない。あるのはエモの歴史を体系的に知ってもらおうとする姿勢と、中年の男性がただ純粋に自分の好きな音楽を楽しんでいる姿なのだ。楽しさや至福感が伝わっているいい作品だ。