Unfun Jawbreaker Blackball Records 2010-03-29 |
90年発表されたデビュー作の、10年に発売されたリマスター盤。ジョーブレイカーとは、エモという言葉が定着していない時期にデビューしたバンドで、フガジやライツ・オブ・スプリングなどのバンドと同様に、エモの創世記のバンドのひとつとして活躍したバンドだ。メンバーの出身が、ボーカル兼ギターのブレイクシュワルツェンバッハとベースのアダムが幼馴染でサンタモニカ育ち。お互いニューヨークの大学に進み、そこでバンドを結成。のにちにロサンゼルスに帰ってくる。そんな彼らの個性とは、西海岸のカラッとした明るさの裏側にある暗く陰鬱な一面。カラッと爽快な小気味よいビートにあるちょっと暗い一面。明るさと陰の部分が魅力なバンドだ。
デビュー作である今作では、ディッセンデンスを発展させたメロディック・パンク。テクニカルで高みに向かって感情を高揚させていくギターや、ハードコアのギタースタイルをポップに変更させた音楽センスや、「アイ・アイ・アー」と歌うのどかなコーラスには、彼らにしかありえない独特なセンスを感じる。エモーショナルなサウンドだが、けっして汗臭くない。カラッとした爽快感が、そこにはある。しかも西海岸独特の、明るさを消し去っている理由は、歌詞にある。“Seethruskin”では反人種差別について歌い、“ソフトコア”では反ポルノについて歌っている。健全な道徳観を持ったパンクだ。だが、そこにやや自己嫌悪気味に人間不信な一面もある。たとえば日本語で不完全という意味である“インコンプリート”では、自分が好きなものが周りから嫌われていることについて歌い、日本語で根性なしといういみの“ガットレス”では、おびえた気持ちに支配されている自分への自己嫌悪を歌っている。いくぶん自傷的でシニカルな傾向にあるが、自分の弱さをさらけ出している。人間味あふれるが魅力なバンドといえるだろう。
当時のパンク・ハードコア・シーンはマッチョでバイオレンスのバンドが主流で、同時期のグランジやオルタナティヴバンドは、内向的な方向に進んでいた。そんな彼らの、<けんかの弱いごく普通の若者によるパンク>というのは、けっして世間受けしなかったし、異質だった。アティチュードの部分でエモの先駆者といえるバンドだし、いま聴いても古びていない作品だ。なおリマスター盤には、ノイズを消したクリアーな仕上がりで、89年に発表されたEP『ウワック&ブライト』から3曲と“ビジー”のリマスターヴァージョンが追加している。