チェイス・ディス・ライト ジミー・イート・ワールド USMジャパン 2009-03-04 |
07年発表の6作目。かなり実験的な作品。彼らの特徴であった純粋な透明性もなくなり大人な仕上がりに。前々作、前作と、ポップで野太いギターロックな作品が続いたが、今作では軽やかなサウンドに劇的に変化した。
『チェス・ザ・ライト』(明かりを追いかける)と名付けられた今作は、新しい発見やチャレンジしていくことが、テーマになっている。とくに変わったのはギター。野太く力強いギターコードが、冷たく細やかなメロディーギターとアコースティックに代わり、多彩になった。それだけでなく、光の粒のようなデジタル音、指をならした音、バイオリンなど、いろいろな音を取り入れている。曲調も変わり、カントリーロックやポップスなどの要素を取り入れ、ヴァラエティーが豊富になった。とくに顕著なのは、80年代のファンクのような“ヒア・イット・ゴーズ”と、アコースティックギターとバイオリンと不吉な効果音の絡みが耽美でミステリアスな雰囲気を醸しだしている“ガッタ・ビー・サムバディズ・ブルーズ”。そこには前作までのよさを捨て、自分たちがやりたかった新しいことにチャレンジしていこうとする姿が窺える。
いろいろな楽器を使い、作りこまれ、劇的に変化した。ここまで多彩になると彼らの特徴であった純粋性は感じられないし、保守的なファンからは戸惑いを受けるかもしれない。だがぼくはこの作品が好きだ。なぜなら、そこに込められた感情が前向きだから。とくに好きなのは、“オール・ウェズ・ビー”から“キャリー・ユー”への流れ。そこには期待にそむいているのを理解しながらも、自分たちを信じて前へ進んでいく力強い衝動がある。ジミー・イート・ワールドはいままで人を励ますようなファイトソングは歌っていなかったし、エモと呼ばれている割にはエモーショナルな衝動が希薄だった。それがここにきて初めてエモーショナルな熱さを見せている。これだけ力強く変化した理由には、ジムに子供が産まれたからだ。自分の子供がいるということは、育てていく責任感も生じるだろうし、家庭を守っていく以上、悩みクヨクヨしているわけにはいかない。一家の大黒柱として、力強く生きていかなくてはいけないのだ。もはや若かりしころのような透明なメロディーや、純粋さや繊細さ、ナイーブさはここにはない。だがその代償に、雑草のように踏み潰されてもはい上がっていく力強さを手に入れた。この作品は、聴くひとに勇気とエネルギッシュな活力をあたえてくれるファイトソングだ。ウジウジしているひ弱なぼくの心を励まし癒してくれる。それが魅力だ。