MY CHEMICAL ROMANCE(マイ・ケミカル・ロマンス)
『THE BLACK PARADE(ザ・ブラック・パレード)』

ザ・ブラック・パレードザ・ブラック・パレード
マイ・ケミカル・ロマンス

ワーナーミュージック・ジャパン 2006-12-05
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06年発表の3作目。前作が220万枚売れたことが影響してか、今作ではポップに変化した。ここにはアイアン・メイデンに影響を受けたNWOBHMメタルや、荒々しいギターの曲はない。メロディック・パンクを中心に、ビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』のようなホーンを使った曲、クイーンの『オペラ座の夜』のようなドラマチックで装飾美的なサウンドなどを取り入れている。ほかにもバラードからロカビリーなどの曲もありモダンなロックに変化を遂げた。

 

大衆受けをするポップサウンドに変わったからといって、けっして悪い作品ではない。むしろリリック面では格段の成長を遂げている。今作では死がテーマだそうだ。そこには救いようのない絶望から発せられた自殺願望や、最愛のひとに先立たれて一人で生きていくことの苦痛など、いろいろな角度から死について語られている。そして作品の中心にあるのが“ブラック・パレード”。歌詞の内容は死を祝うパレードで、お葬式が結婚式のような華やかさとにぎわいをもっている。悲しみを明るく振る舞い、最後の審判を待つ長い列が、まるで自分を祝福してくれているような歓喜だ。でもそこには、たとえ自分が死んでもこの世に産まれて存在していた証は残る。―-人びとに自分がこの世に生きてたいう存在証明をし、忘れられないためのパレードだという意味がこめられている。シニカルな内容だが、意外と意味が深い。サウンドのピークが前作なら、リリックや表現者の部分では間違いなく今作がピークだろう。死について深く考えることによって、現在自分が生きている価値や意味を導き出そうとしているのだ。これぐらいの年齢だと死にたいして漠然とした恐怖を抱くものだが、彼らは独特の死生観を持っている。それを屈折した表現で表現するところが、このアルバムの凄さなのだ。

 

明るくポップなサウンドを屈折した歌詞でくるみ、独特なシニカルな表現をしているが、根底には孤独や切なさを感じる。そこがこのアルバムが、大多数から受け入れられ、評価された理由であり、彼らがまともな人間だと感じられる部分だろう。前作に続き、この作品もすばらしい。