Can’t Slow Down Saves The Day Equal Vision Records 2003-05-23 |
98年に発表されたデビュー作。ボーカリストであるクリス・コンリーが、高校生のときに作られた作品。当時の参考資料を読むと地元ニュージャージーのメロディック・ハードコア・バンド、ライフタイムやワシントンDCのダグ・ナスティー、イギリス・ニューウェーヴ・バンドのポリスやスミスに影響を受け、バンドを始めたそうだ。
スミスやポリスの影響こそ感じることができないが、ここで展開されているサウンドは、ダグ・ナスティーやライフ・タイム、初期パンクに影響を受けたメロディック・パンク。スピーディーで野太いギターコードに、繊細なメロディーが絡むサウンド。すべてが勢いだけでグイグイ押していく展開の、ノー天気な明るさよりも、憂いなどの湿った感情がある典型的な東海岸のメロディック・パンクだ。サウンド的にはこの時点で、オリジナルティーを感じることはできないが、クリスの少年のあどけなさが残る歌声が特徴的。妙に高音が伸びる歌い方こそ稚拙さが残るが、悲しみや憂い、やりきれない感情を叫んでいる。その感情が込められている歌詞がすごい。“チョーク”では、<僕の気持ちはまだ心の中。君が見えないところにまだ閉まってある。指先を噛めばこの溢れる気持ちを伝える言葉を何とか見つけられるかもしれない>と歌っている。そこには初恋をしたとき相手に打ち明けることのできない想いがあり、胸が締め付けられるような想いや瑞々しさがある。そして“オブソリート”では、<毎日が同じことの繰り返し、僕がどんなに孤独な人間なのか、思い巡らす毎日~幸せって結局どういうことなんだ?>と、なぜ自分が不幸な境遇なのかと、問いかけている。歌詞は、ボーカル、コンリーの当時の人生を反映した内容で、誠実さや感傷や孤独、理想的な夢などがアルバムのテーマになっている。歌詞すべてに共通するのは、まるで「若きウエイテルの悩み」のような、純粋で無色透明なみずみずしい内容だ。初恋のときに感じる感情や思春期特有のドキドキ感や、世の中に対する疑問。挫折や失敗、深い孤独や恋など、すべてが初めて経験する感情。それこそが16~18歳特有の感性なのだ。ボーカルにも演奏技術にも、未熟さを多分に感じる。歌詞も大人から見れば、思わず叫びたくなるような恥ずかしくなる内容だが、だがその未熟さが逆に魅力となっている作品なのだ。