SAVES THE DAY(セイヴス・ザ・デイ)
『STAY WHAT YOU ARE(ステイ・ホワット・ユー・アー )』

ステイ・ホワット・ユー・アーステイ・ホワット・ユー・アー
セイヴス・ザ・デイ

ビクターエンタテインメント 2001-06-20
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01年に発表された3作目。前作『スルー・ビーイング・スルー』のセールスが好調だったため、大手インディー・レーベル、ヴェイグランドに移籍を果たした。当時、所属していたレーベルはイゴール・ヴィジョン。イゴール・ヴィジョンは小規模なレーベルで、作った音源を複製する部数に限度があったし、セールス面や広告・宣伝面でも、アピール範囲が狭く、限界があった。そしてなりより取り扱っているアーティストはどれもポスト・ハードコア系のヘヴィーな音を追求しているバンドが在籍したレーベルだった。そんなイゴール・ヴィジョンと比べ、ヴェイグランドは、当時新興レーベルでこそあったが、エモという新しく誕生したジャンルのバンドと、積極的に契約を交わし、なかでもゲッド・アップ・キッズの大ブレイクによって、当時、飛躍的に大きく売り上げを伸ばし、飛ぶ鳥を落とす勢いがあった。

 

そんなヴェイグランドと契約を交わしたセイヴス・ザ・ディ。そこで得られたメリットは、はるかに大きかった。まず一つ目はエピタフと肩を並べるほどの大手インディーレーベルに移籍することによって、セイヴス・ザ・ディというバンドの注目度がさらにあがり、セールスも伸びた。二つ目はバンド・イメージとレーベル・イメージが共通点。そのお陰でセイヴス・ザ・ディは、これから先、エモというジャンルのバンドとして括られることになり、ポップなサウンドを展開しているバンドだというイメージを、世間に植えつけることに成功した。バンド、レーベル側の双方が望んでいる結果を得られることになったのだ。

 

ヴェイグランドと契約を交わしたことによって、相当意気込んで制作されたと思われる今作は、前作よりもさらにポップさを追求している。サウンドのベースにあるポップ・パンクであることに変わりはない。だが、ここでは前作よりさらにメロディーに力を入れている。前作のブリンク182などに影響を受けた西海岸のポップ・パンク・サウンドとは違い、ここではアメリカンポップスから影響を受けたメロディーを追求している。

 

たとえば“サートゥン・トラジェディ”では、平凡なラブソングを歌った明るく健やかな60年代のアメリカン・ポップスからメロディーを取り入れて、“フリーキッシュ”では、スイートなメロディーが魅力で、切なく甘酸っぱいバラードを歌っている。また“ジュークボックス・ブレイクダウン”では、中国っぽいメロディーを取り入れ、変わったアレンジを展開している。アメリカンポップスを取り入れたことによって、バンドイメージも、不良っぽさがまったくない、健全な若者が抱えたコップレックスや、学生時代の恋愛や平凡な悩みなどを、打ち出すことに成功している。

 

そして今回とくに成長を感じるのが、ボーカルの歌声。甘酸っぱさとスウィートで甘いメロディーを有した歌声で、曲によって感情の押し引きを憶えた。ときには楽しさの陰を表現し、感情によって声色を変えたり裏声を使って、自分の美声の長所を生かした歌い方をしている。

 

歌詞も学生時代の恋愛の甘酸っぱい気持ちを歌った青春の一幕といった内容は健在。だが今作では<口の中に林檎を突っ込まれた豚のようにされる>や、<しばらくしたらそこが落雷で燃え上がる>などの比喩が目立つ。若干大げさに感じるかもしれないが、彼女に対する想いを表現するのに何かにたとえるほうが適していると感じて比喩を多用しているのだろう。だがその比喩のお陰で、未熟さ、真摯な気持ち、後年振り返ると赤面しそうな恥ずかしさなどの、いわゆる若気の至りがなくなった。その辺は少し残念だが、円熟味は確実に増している。

 

全体的に初期衝動や疾走感はなくなったが、その分メロディーをじっくりと練り上げ、厳選し、甘酸っぱさとスイートさは確実に増している。ものすごいこだわりを見せている。これほど甘酸っぱさが凝縮されたメロディック・パンクはほかにはないのではないか。