Do You Know Who You Are? Complete Collection Texas Is the Reason Revelation 2013-02-17 |
エモーショナル・ハードコアの最重要バンドのひとつであるテキサス・イズ・ザ・リーズンの95年に発表された最初で最後にして最高傑作のアルバム。このたびデビューEPと1ST、プロミス・リングとサミュエルとのコンピから1曲づつ、初期音源化の2曲が追加され、全曲リマスタリングされた。13年に発表された編集版だ。
彼らの功績とは、エモーショナル・ハードコアというジャンルを確立ところにある。天下(ここでは音楽ジャンル)という名の餅を、信長が杵で搗いて、秀吉が捏ね、家康が食べると、いった戦国時代の例でたとえるなら、テキサス・イズ・リーズンは秀吉だろう。文字通りエモーショナルがこもった絶叫で、エモというジャンルを作ったエンブレイスやライツ・オブ・スプリングは先駆者的存在だが、大きなシーンを作るまでにいたらなかった。逆にエモのサウンド・フォーマットやアティテュードをポップ化し、不良にも優等生にもなれないという冴えない男というウィーザーの要素まで取り込んだジミー・イート・ワールドやゲット・アップ・キッズは、エモ・シーンがブレイクするきっかけとなったバンドとして知られ、家康の例えが合っているだろう。
エモのアティテュードやサウンド・フォーマットを確立しながらも、大きなムーブメントが起きることも、売れることも決してなかったテキサス・イズ・ザ・リーズンは、まさに秀吉だろう。そのテキサス・イズ・リーズンが、確立したエモーショナル・ハードコアとは、内省的なアティテュードと、やりきれない想いを吐き出すような情動と、繊細なメロディーの静寂がアップダウンするサウンド・スタイルだ。テキサス・イズ・ザ・リーズン以前のニューヨーク・ハードコアは、マッチョな不良たちが反社会的で警察権力などにも暴力を辞さない、闘争的なシーンであった。それがテキサス・イズ・リーズンやサニーディ・リアル・エステイトなどのバンドが出現すると、文学的で喧嘩が弱そうで華奢な泣き虫な文学青年にもハードコアの門戸を開いた。そのサウンドは外へ向かっていたハードコアとは違い、繊細でナイーヴな内面世界を表現していた。
改めて今回のリマスター盤を聴いてみると当時では気づかなかった細かい音のディティールがはっきりしている。そして彼らが確立したエモーショナル・ハードコアとは、エンブレストから続くノイズギターと、かすれた鼻声で絶叫するエモーショナルな歌声の“動”の曲と、ナイーブな感情を紡ぎ静かに鳴り響く“静”曲のメロディーにある。“動”と“静”のアップダウンにあるのだ。そこには外へ向かって突き進んでいくような熱い感情や爽快感はない。荒々しいノイズギターには、心の深淵にあるやりきれない思いを表現しているように感じるし、かすれた鼻声で絶叫するボーカルからは、他者に理解してもらいたい欲求のような衝動を感じる。そして穏やかで静かなメロディーには、傷ついた心をあやし慰めるような神経質な音がある。すべて一人称で完結している内向きな感情と、デリケートなメロディーが、エモーショナル・ハードコアのひ弱でうじうじしたイメージを作ったのだ。その新しいアティテュードに多くの人が共感したことは事実だが、ハードコア界に多くの敵を作ったもの事実だ。その賛否両論がこのバンドを売れることなく無名なままに終わらせた理由だろう。
だがエモのサウンドフォマットととなる雛形を作ったのは、紛れもなくこのバンドだ。あとにJ・ロビンス(元ガバメント・リイシュー、元ジョーボックス)が、エモ界の辣腕プロデューサーとして知られるようになる理由は、この作品をプロデュースしたのがきっかけだ。それほど後世にあたえた影響はすさまじく、紛れもなくエモの名盤なのだ。