Dropdead (ドロップデッド)
『2020』

ロードアイランド州プロビデンス出身のパワーバイオレンス・バンドの、じつに22年ぶりとなる3作目。正式な形でのリリースは22年ぶりとなるが、その間、Converge(コンヴァージ)とのスプリットEPや、『Demo2019』などの作品をBandcamp(バンドキャンプ)で発表し、コンスタントな活動は続けていた。

 

彼らの存在を一躍有名にしたアルバムは、93年に発表された『落とす死』。Discharge(ディスチャージ)を、よりスピーディーに、よりファストに、よりノイジーにしたサウンドで、ナパーム弾のような爆裂ノイズを中心に、怒りや嘆きといった阿鼻叫喚に満ちた作品だった。

 

今作でもDROPDEAD(ドロップデッド)節は相変わらず健在で、1分台で終わるパワーバイオレンスなサウンドを展開している。だが前作までと比べると、Discharge(ディスチャージ)色は薄れ、GBH寄りな骨太でパワフルなハードコアに変化している。

 

どろどろしたマグマのようにブンブンとうねるベース。スピーディーで目まぐるしくけたたましい勢いのドラム。土石流のように目の前に襲い掛かってくるノイズ・ギターの壁。すべてが簡潔で激しくファストなサウンド。そのノイジーな音壁の向こうには、は苛立ちと危機感と怒りに満ちている。

 

ボーカルは怒声からしっかりと聞き取れる歌声に変化。その理由はおそらく歌詞の内容を伝えたかったからだろう。アルバム・ジャケットのモノクロの街の廃墟の写真が象徴している通り、戦争をすることよって腐敗したアメリカ合衆国の問題点を、浮き彫りにしている。

 

歌詞は一つのコンセプトでくくられている。戦争することによって利益と強権を得ているアメリカへの“warfare state(戦争国家)”から、富裕層と白人という特権階級しか優遇されない “United States Of Corruption(アメリカ合衆国の腐敗)”。そんな特権階級のために戦争に行くことが出来るかと問いかけた“Will You Fight?(あなたは戦いますか?)”。そして最後は選択次第では輝かしい未来を勝ち取れることを信じた“The Future Is Yours(未来はあなたのものです)”で幕を下ろす。

 

そこには右翼過激主義が台頭し、自己中心的で特権階級しか優遇されない腐敗したアメリカの現状を、怒りを込めて歌っている。そしてアメリカ・ファーストを掲げながらも、マイノリティーは恩恵を受けることが出来ない現政権への欺瞞を、嘘のベールを引き裂きながら、国民に目を覚ませと、訴えかけている。

 

まさに怒りに満ちたポリティカルなハードコアな作品。イギリス初期ハードコアの伝統を、かたくなに守り、継続したサウンド。目新しさこそないが、現在の若者のハードコア・バンドに足りない精神性や怒りを提示している。本来のハードコアとはこんなものだと、存在意義を明確に示した作品なのだ。

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