フィラデルフィア出身のアフロ・ハードコア・バンドの4作目のEP。アメリカ国旗を燃やしたジャケットや『DisNigga(侮辱する黒人)』というスラングのタイトルから分かる通り、初期のころから一貫して、アメリカ社会におけるアフロ・アメリカンの虐げられた現状や、劣等感、実際に起きた事件などについて歌ってきた。
白人男性にレイプされるアフロ・アメリカンの女性や、フィラデルフィアで起きた白人警察によるアフロ・アメリカンへの暴力、アフロ・アメリカンであるがゆえに下層階級に属され、味わった劣等感や貧困、グロバリゼーションという名の白人至上主義などの、階級格差や差別などのアフロ・アメリカンのリアルな日常について歌ってきた。その生々しい内容の歌詞には、怒りよりも、何もできない憤りや、なぜという悲痛な叫び声のほうがより強く反映されている。
そのサウンドは実験的な要素が強く、次世代のポストコアと呼べるようなオリジナルティーあふれている。Bad Brains(バッド・ブレンイズ)やYDLなどの80年代東海岸ハードコアと、90年代のポリティカル・ニューヨーク・ハードコア・バンドのBorn Against(ボーン・アゲンスト)を合わせたサウンドをベースに、CEREBRAL BALLZY (セレブラル・ボールジー)の激しさ、At The Drive-In(アット・ザ・ドライブイン)のような静と動のコントラストなどの00年代以降の要素を合わせたデビュー作の『 ” “』。トリッキーなギターを取り入れ、ポスト・ハードコアなアプローチで実験的なサウンドをさらに突き詰めている『UNTITLED LP(無題LP)』。激烈ハードコアの『THE NIGGA IN ME IS ME(ザ・ニガー・イン・ミー・イズ・ミー)』と、より激しく、より過激に、よりスピーディーに、よりカオティックに進化してきた。サウンドの方向性こそ微妙に異なるが、Touché Amoré(トゥーシェ・アモーレ)と同様、新世代のポスト・ハードコアを代表するバンドなのだ。
『 DisNigga, Vol. 2 (ディスニガー, Vol. 2)』と名付けられた今作は、アメリカで奴隷解放宣言を祝う祝日”ジューンティーンス”(6月19日)に発売。狂ったデジタル音やピップ・ホップ、ファンクなどを取り入れ実験的だった前作の『DisNigga, Vol. 1 (ディスニガー, Vol. 1)』と比べると、シンプルなハードコアな作品に仕上がっている。2コード2ビートのシンプルなハードコアで、スピードが上がっていくにつれ感情が高揚していく展開。扇情的で怒りむき出しのギター、めちゃくちゃなリズムのドラム、取り憑かれたようなけたたましい叫び声のボーカル、悲痛と怒りが入り混じり、演奏技術を無視し、勢いや情動を重視している。
今までの作品と比べると、歌詞は希望やポジティヴな要素を求めた内容が多い。憧れと名付けられた“YERRRNIN (憧れ)”では、<私は彼らに愛が何であるかを知らなかったことを納得させ、弱者のために人生に導いた>と歌い、“B.O.M.B.S. ”では、<あなたたちは私たちの心を奪うことはできない。私たちは笑顔で全世界を洗い流す。>と歌っている。いままでどこが被害者意識や劣等感が見受けられたが、この作品では、逆にアフロアメリカンであることの誇りや気高さを全面に出し、まるで悟りを開いたかのように、愛や仲間意識といった友愛の感情を謳っている。彼らの精神的な成長を感じる作品なのだ。
同じものは2度と作らない姿勢は、歌詞にもサウンドにも貫かれている。エピタフ・レコーズから次に発表される4作目となるフルアルバムは、おそらく年間ベスト10に入ってくる内容になるだろう。それほど、将来を期待され、要注目のバンドなのだ。