The Muslims(ザ・ムスリムズ)
『Fuck These Fuckin Fascists (ファック・ズィーズ・ファッキン・ファシストズ)』

イスラム教徒のハードコア・バンドの4作目。The Muslims(ザ・ムスリムズ)と名付けられたバンド名は、アラビア語でイスラム教徒という意味。そもそもムスリムとイスラム教徒との違いは、同じ神を信仰しているけど、イスラム教徒は、酒を飲まないなど、厳格な戒律を守る人が多い。ムスリムはトルコ人のように酒を飲む人もいる。いわばゆるいイスラム教徒なのだ。

 

デビュー作の『Muslims At The Mall(ムスリムズ・アット・ザ・モール)』はガレージや初期パンクにイスラム教の旋律を合わせたサウンドだった。そしてファスト・コアの要素が強くなった『MAYO SUPREME(マイヨ・スプリーム)』2作目。Jimi Hendrix(ジミ・ヘンドリクス)のようにサイケデリックなギターが印象的なEP『Inshallah: Tomorrow We Inherit The Earth(インシャラ・トゥモロー・ウィー・インヘリット・ザ・アース)』。ノイズコアな『Gentrifried Chicken(ジェントリフィケーション・チキン)』と、作品ごとに異なるサウンドを展開してきた。

 

そして今作では原点回帰の初期パンク・サウンド。いままでになくポップな作品に仕上がっている。SEX PISTOLS(セックス・ピストルズ)のようなとがったギターに、甲高い声のボーカルと、お時話のようにふざけた声のコーラスが絡む展開。そこには明るくポップなユーモアが漂っている。

 

歌詞はファシズムや白人至上主義への怒りや、人種差別などについて歌っている。だがそこにシリアスさはなく、グロポップな要素がある。例えるなら、『ダウンタウンのごっつええ感じ』内で放送されていたアニメ、“きょうふのキョーちゃん“のような、怒りをホラー・スプラッターにして笑いに変える、ブラックユーモアな感覚。“Illegals(イリーガルズ)”では、白人移民も違法のはずなのに自分たちだけが罪に問われることへの、虐げられた状況を自虐的に笑い飛ばし、“John McCain’s Ghost Sneaks Into The White House And Tea Bags The President(ジョン・マケイン・ゴースト・スニーク・イントゥ・ザ・ホワイトハウス・アンド・Tバックス・ザ・プレジデント)”では、オバマ大統領に大統領選挙で敗れたジョン・マケインのことを、未練がましいと揶揄している。アメリカ社会ではマイノリティーであるイスラム教徒。マイノリティーであるがゆえに差別や迫害を受けるケースも多々あるだろう。だが彼らは、そんな怒りをグロポップに変え、笑い飛ばしている。それがThe Muslims(ザ・ムスリムズ)の特徴なのだ。

 

イスラム教のパンク・シーンといえば、タクヮコアを思い起こすが、このバンドはどうやらタクヮコア・シーンとは関わりがなさそうだ。ヒステリックなほど甲高い声でせわしなく病的な明るさ。激しくポップで毒に満ちたサウンド。サウンド的には目新しさこそないが、新しい精神性や価値観を提示したバンドであることに間違いはない。