One Step Closer(ワン・ステップ・クローザー)
『This Place You Know(ディス・プレイス・ユー・ノン)』

ペンシルベニア出身のユース・クルー・リバイバル・バンドのデビュー作。Gorilla Biscuits(ゴリラ・ビスケッツ)から、TURNING POINT(ターニング・ポイント)、Have Heart(ハブ・ハート)などのエモーショナルでメロディックなハードコアから影響を受け、さらにブラッシュアップしたサウンドで、2020年以降の、最新型のエモーショナルでメロディックなハードコアを展開しているバンド。

 

エモーショナルでメロディックなハードコアをベースにしたサウンドは今作でも変わらない。だがさらに深化を遂げたサウンドを展開している。力強くメロディックなエモーショナル・ハードコアに、嘆きと憤りに満ちた怒声ボーカルが、まるで荒れたオフロードのように障害にぶつかりながらも進んでいく気迫に満ちている。その疾走するメロディーには、どこか内省的で、憂いと孤独が漂っている。そしてそのピークの頂点を迎えた曲が深い悲しみに彩られたピアノ曲の“Hereafter(ヒアアフタ)”。ここではいままで希望を信じて駆け抜けてきたことが徒労に終わったかのような、寂寥と憔悴に満ちている。

 

今作では失った愛への虚しさや憂鬱、孤独などがテーマになっている。楽しかったあのころを取り戻したい気持ち。痛みを乗り越え、自分自身が成長し変わるため、地元であるペンシルベニア州ウィルクスバリを離れる決意。悲しみと憤り。楽しかった思い出と街を離れる決意。そんな逡巡で心がゆれている。

 

個人的には、Touche Amore(トゥーシェ・アモーレ)と近い位置にあるバンドのように感じた。だがOne Step Closer(ワン・ステップ・クローザー)のほうが、よりエモーショナル・ハードコア度が高く、迫力あるサウンドを展開している。この悲しみと憤りと離れる決意に彩られた作品は、心に訴えてくる悲しみがあり、今年のハードコアのベスト10に入る素晴らしくいい作品。