𝄃ABC No Rio(ABCノー・リオ)
1989年11月、ハードコアの登竜門として知られていたCBGBのマチネが中止された。それを受けて、SFAの元ヴォーカルであるMike Bromberg(マイク・ブロム)の発案により、同年12月からABC No Rio(ABCノー・リオ)にて、毎週土曜日の午後にパンク/ハードコアのマチネが開催されるようになった。
ABC No Rioでのライヴは、CBGBマチネに蔓延していた暴力、同性愛嫌悪、性差別、マチズモを排除することを目的としていた。性差別、人種差別、同性愛嫌悪を助長しないという明確な方針のもと、現在に至るまでメジャーレーベルに所属していないインディーズ・バンドのみをブッキングしている。
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出典:The Architect’s Newspaper
『Look at All the Children Now(ルック・アット・オール・ザ・チルドレン・ナウ)』は、当時ABC No Rio(ABCノー・リオ)のハードコア・シーンで活躍していたバンドを収録したコンピレーション・アルバムだ。
このシーンで中心的な役割を果たしていたのは、Citizens Arrest(シチズンズ・アレスト)、Born Against(ボーン・アゲインスト)、Burn(バーン)などのバンドである。とりわけCitizens Arrest(シチズンズ・アレスト)は、ABC No Rio(ABCノー・リオ)に最初期に出演したハードコア・バンドのひとつであり、シーンの形成に積極的に関与した。
ABC No Rioのシーンは、音楽に没頭する“オタク”たちによって構成されていた。運営者もバンドたちも、閉店したCBGBのハードコア・シーンを否定的に捉え、暴力や差別主義を徹底的に排除する姿勢を打ち出した。ナックルヘッド(知性や判断力が低い人、愚かな人の俗語)やエリート主義者の徒党から解放された、新たなシーンのイメージをABC No Rioで築き上げたのである。
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出典:EV Grieve
そのなかでも際立った存在だったCitizens Arrest(シチズンズ・アレスト)は、DYSやSS Decontrol(SSデコントロール)といったボストン・ハードコアの影響を受ける一方で、パワーバイオレンスの先駆者であるInfest(インフェスト)からも刺激を受け、ハードコア・パンクにグラインドコアやパワーバイオレンスの要素を巧みに融合させていた。
Citizens Arrest(シチズンズ・アレスト)
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出典:facebook_CITIZENS ARREST
ヴォーカルのKahan(カハン)は、メロディアスなハイスクリームから深みのあるグロウルへと自在に変化する表現力を持ち、ギタリストのJanis Chakars(ジャニス・チャカー)は、生々しく歪んだギター・サウンドを響かせた。Joseph Martin(ジョセフ・マーティン)のピックレス・ベースは、リズムセクションの脈動するバックボーンとして機能し、ドラマーのWinter(ウィンター)は、強烈かつストレートなハードコア・スタイルで、不協和音を交えた独特なサウンドを生み出していた。
Citizens Arrest(シチズンズ・アレスト)
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出典:facebook_CITIZENS ARREST
「Utopia(ユートピア)」の歌詞では、自殺をマゾヒスティックな行為として称賛する姿勢が描かれている。また、「Briviba(ブリヴィバ)」では、ラトビア系ギタリストであるChakars(チャカー)が、ソ連による植民地支配に苦しんだ同名の親族の物語を通じて、バルト諸国の自由への希求を歌っている。
「Number(ナンバー)」は、アメリカの不十分な教育制度をテーマにした楽曲であり、その他にも、動物愛護を訴える「Suffer Now(サファー・ナウ)」、皮肉を込めた反ポルノ・ソング「Paper Cuts(ペパー・カッツ)」、宗教への過度な依存を批判する「Agony God(アゴニー・ゴッド)」(Grand Malのリワーク)など、多様な社会的・政治的テーマを扱っている。
Citizens Arrestは1989年から1991年まで活動し、2010年に再結成。現在も不定期ながら活動を継続している。
Citizens Arrest(シチズンズ・アレスト)
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出典:NO ECHO
CBGBの狂気とABC No Rio(ABCノー・リオ)の全く異なるバイブの間を行き来していたBurn(バーン)は、1989年から1992年まで活動していた、ブルックリンのウィリアムズバーグを拠点とするハードコア・バンドである。Cro-Mags(クロマグス)など1980年代のハードコアに影響を受けつつ、1980年代初頭のUKパンク、メタル、ジャズを融合させ、ポスト・ハードコアの先駆けとなるサウンドを展開していた。
フレーズを幾重にも重ねたギター、ミッドテンポの荒々しさ、そして暗く陰りのあるサイケデリックな雰囲気を取り入れ、ダイナミズムに富んだグルーヴ志向のハードコアを築き上げた。
Burn(バーン)
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出典:Facebook_Burn
そして何よりの魅力は、ヴォーカルのChaka Malik(チャカ・マリク)による歌詞である。
「Out of Time(時間切れ)」では、 「全ては崩れ落ちる/破壊の連鎖が切れる瞬間/壊れた世界」 と歌い、崩壊の予兆を描く。
「..Shall Be Judged(裁かれるであろう)」では、 「地球の破壊につながる/生命はまもなく終わる/そして我々は自らの罪と向き合う」 と、環境破壊と人類の責任を突きつける。
「Drown(溺れる)」では、 「憂鬱が私を悩ませている/私は自由になれない」 と、内面の葛藤と閉塞感を吐露する。
彼のリリックは、環境破壊への警鐘や人間の内面の葛藤を、哲学的かつ内省的な言葉で描き出している。
Burn(バーン)
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出典:Facebook_Burn
Burn(バーン)は1992年に一度解散。ヴォーカルのChaka MalikはOrange 9mm(オレンジ・ナインミリ)を結成し、ドラムのAlan Cage(アラン・ケージ)はQuicksand(クイックサンド)に参加した。Burnは現在も不定期ながら活動を続けている。
CBGBとABC No Rioという対照的な空間を自在に行き来し、ハードコアに新たなジャンルの音楽を取り込む柔軟性を持ったBurn(バーン)は、まさに1990年代という新しい時代のハードコアを体現したバンドであった。