𝄃ラジオ局WNYUでのBorn Against(ボーン・アゲインスト)と Sick Of It All(シック・オブ・イット・オール)による公開討論
ニューヨーク・ハードコア史上、最大の人気を誇り、メジャー契約を勝ち取ったのが Sick Of It All(シック・オブ・イット・オール)だ。Negative Approach(ネガティヴ・アプローチ)から影響を受けた怒声、男臭さ漂うOiコーラス、Plasmatics(プラズマティクス)や Black Sabbath(ブラック・サバス)に影響を受けた骨太なギターが特徴的だ。
さらに、ブレイクダウンを多用した展開や、Cro-Mags(クロマグス)、Agnostic Front(アグノスティック・フロント)、Reagan Youth(レーガン・ユース)、Discharge(ディスチャージ)、GBH、Motörhead (モーターヘッド)、Crass(クラス)、そしてThe Exploited(エクスプロイテッド)など、多様なバンドからの影響が楽曲に色濃く表れている。
彼らの音楽は、シンプルなハードコアでありながらもメタル色を排し、豊かなバリエーションを持つ点で際立っており、ニューヨーク以外のバンドにも大きな影響を与えた。Sick Of It All(シック・オブ・イット・オール) の登場によって、ニューヨーク・ハードコアは新たなフェーズへと突入し、シーン全体に変化をもたらしたのである。
Sick Of It All(シック・オブ・イット・オール)
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出典:Mixed Alternative
しかし、そのメジャー志向はシーン内に軋轢を生み、一部からは「セルアウト(社会的メッセージを排し、商業的成功のみを追求する行為)」と批判された。象徴的な事件となったのが、1990年にニューヨークのラジオ局WNYUで行われた、Born Against(ボーン・アゲインスト)と Sick Of It All(シック・オブ・イット・オール)による公開討論である。
反商業主義こそがハードコアの本質だと主張する Born Against(ボーン・アゲインスト) は、Sick Of It All(シック・オブ・イット・オール) がメジャー・レーベルでハードコアをメインストリームに流通させるために歌詞を改変し、妥協したと批判した。彼らは、Sick Of It All (シック・オブ・イット・オール)が金と名声のためにレーベルに屈服したとして、公然と非難したのである。
Sick Of It All(シック・オブ・イット・オール)のように労働者階級の地域で育ち、郊外的な精神を持つバンドもいれば、Born Against(ボーン・アゲインスト)のように中流階級の家庭で育ったバンドも存在した。前者は、ハードコアを「音楽で生計を立てる可能性のあるキャリアパス」として捉えていたのに対し、後者はハードコアを、自分たちが育ってきた裕福な特権への抗議手段と見なしていた。
結局のところ、それは「タフガイのハードコア野郎」と「鼻持ちならないハードコア・インテリ」という構図による、階級闘争の様相を呈していた。
Born Against(ボーン・アゲインスト)のような中産階級出身の視点からすれば、メジャー・レーベルは金儲け主義の象徴であり、音楽は金や名声のために作るべきではないと考えられていた。一方、Sick Of It All(シック・オブ・イット・オール)は、愛するハードコアで生活できるのであれば、メジャー・レーベルからのリリースも厭わないという立場だった。
何より、中産階級出身のハードコア・バンドたちは大企業を全面的に否定しながらも、ガソリンや電気といった大企業が運営するライフラインに依存して生きている。その矛盾を、Sick Of It All (シック・オブ・イット・オール)のようなバンドは偽善的で高慢な態度と受け止めていた。裕福な家庭出身者による口うるさい屁理屈は、彼らにとってただの空虚な理想論に過ぎなかったのかもしれない。
両者の間に生じた軋轢は、単なるメジャー・レーベルへの賛否を超え、より深い価値観の対立に根ざしていた。結局のところ、どちらの考えも一理あり、ハードコアとは、さまざまな意見と価値観が共存する音楽なのだ。
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出典:Facebook_WNYU Radio