New York Hardcoreニューヨークハードコア・シーンについて
(1980-1990)完全版PART-4

𝄃日本でニュースクールバンドたち

1990年以降のニューヨーク・ハードコアは、日本では「ニュースクール」と呼ばれ、本国アメリカでは「90年ハードコア」として、新世代の若者たちによる新たなフェーズへと突入していく。1990年代のニューヨーク・ハードコア・バンドには、1980年代のオールドスクールのようなサウンドやスタイルを踏襲する者はほとんど存在せず、スピーディーな部分が削ぎ落とされ、新しく再構築された感があった。

1988年頃、Agnostic Front(アグノスティック・フロント)のRoger Miret(ロジャー・ミレット)は、『United Blood, Part Two(ユナイテッド・ブラッド・パート2)』という仮題を付けた曲のカセットを持ち込んだ。そこには、彼の弟であるFreddy Cricien(フレディー・クリシアン)が歌う、3〜4分ほどの録音が収められていた。この音源は後にMadball(マッドボール)の『Ball of Destruction EP(ボール・オブ・ディストラクションEP)』として正式にリリースされることになる。

その後、ベースにHoya Roc(ホヤ・ロック)、ドラムにWill Shepler(ウィル・シェプラー)、ギターにMatt Henderson(マット・ヘンダーソン)が加わり、Madballが本格的に始動。NYHCの古典的スタイルに、グルーヴィーで新世代的な要素を融合させたサウンドを展開し、90年代以降のシーンを象徴する存在となっていった。
 

Madball(マッドボール)


出典:lsat.fm

Sick Of It All(シック・オブ・イット・オール)やKilling Time(キリング・タイム)などのツアーを観に来ていたキッズたちは、やがて自らのバンドを立ち上げ始めた。Vision of Disorder(ヴィジョン・オブ・ディスオーダー)、Subzero(サブゼロ)といった新世代のニューヨーク・ハードコア・バンドが次々と登場していく。
とくにH2O(エイチ・ツー・オー)とCrown of Thornz(クラウン・オブ・ソーンズ)は、Sick Of It Allなどのバンドのローディーとしてツアーに同行した経験を持ち、現場で培った感覚を自らの音楽に昇華させていった。

H2O(エイチ・ツー・オー)は、ニューヨーク・ハードコアの中でも、シンプルかつメロディックなスタイルを展開するバンドだ。西海岸の7 Seconds(セブン・セコンズ)、Descendents(ディッセンデンツ)、Bad Religion(バッド・レリジョン)といったバンドから影響を受けつつ、そのサウンドをニューヨークの空気感に閉じ込めている。


メロディアスでハーモニーのあるヴォーカル、スピーディーで疾走感のあるドラム、そしてエネルギッシュな初期衝動に満ちたサウンドが特徴的だ。歌詞では、仲間との友情や家族との絆、ハードコアへの忠誠心と愛を真っ直ぐに歌い上げている。
その前向きで情熱的なサウンドは、ニューヨーク・ハードコアに「メロディック・ハードコア」という新たな多様性を提示し、シーンに鮮やかな彩りを加えた。
 

H20(エイチ・ツー・オー)


出典:Mighty Sounds

Cro-Mags(クロマグス)やAgnostic Front(アグノスティック・フロント)のクロスオーバー・スラッシュ期の影響を受けて活動を始めたCrown of Thornz(クラウン・オブ・ソーンズ)は、ヒップホップ的な歌いまわし、多彩なリフにこだわったギター、そしてメタルの要素を融合させ、さらにパワーアップしたハードコア・サウンドを展開した。

フロントマンでヴォーカルのLord Ezec(ロード・イーザック)は、DMSというハードコア・クルーに所属しており、これは日本で例えるなら“渋カジ”のようなストリート感覚を持つ集団だ。彼の歌詞には「憎悪に満ちた世界、お前が嫌いだ」や「病的に苦痛を与えろ」といったフレーズが登場し、ニューヨーク・ハードコアのサブジャンルである“タフガイ・ハードコア”をより攻撃的かつ進化した形で提示している。
 

Crown of Thornz(クラウン・オブ・ソーンズ)


出典:instagram

元Breakdown(ブレイクダウン)のRichie Kennon(リッチ・ケノン)と、ニューヨークを拠点に活動するストレートエッジ・バンドUp Front(アップ・フロント)のJim Eaton(ジム・イートン)らによって結成されたSubzero(サブゼロ)。スピーディーなハードコアを基盤に、OiやBreakdownの影響、メタリックで分厚いギター、さらにはオリエンタルなメロディを織り交ぜ、Agnostic Front(アグノスティック・フロント)からCro-Mags(クロマグス)、Breakdown、Killing Time(キリング・タイム)まで、ニューヨーク・ハードコアの系譜を集約しつつ、ラップ・ヴォーカルなどの新しい要素も取り入れている。

ヴォーカルのLou di Bella(ルー・ディ・ベラ)は、急性リンパ性白血病を患い、入院中に恐怖と苦痛を味わいながら死の淵を彷徨った経験を持つ。彼はその闘病を通じて「より強い人間になった」と語っており、その壮絶な体験はSubzeroの音楽にも色濃く反映されている。

闘病生活を歌った「Lionhearted(ライオン・ハーテッド)」では、「命をかけて戦わねばならなかった、生き延びるためだけに苦闘した、人生で最悪の痛みを味わった」「決して屈するな、苦闘に打ちのめされるな、心を集中させ続けろ、そうすればこの世界は君のものだ」といったフレーズが登場し、死という絶望の淵にあっても生きることを決して諦めなかった、不屈の精神が力強く歌われている。

Lou di Bellaの胸骨に刻まれた「Cancer killah」というタトゥーも、その闘いの象徴として印象的だ。メタル、独特なメロディ、ヒップホップなど多彩な要素を取り入れた楽曲と、壮絶な人生経験を綴った歌詞によって、Subzeroはニューヨーク・ハードコアの中でも異彩を放つ存在となっている。
 

Subzero(サブゼロ)


出典:last.fm

Vision of Disorder(ヴィジョン・オブ・ディスオーダー)は、ニューヨーク州ロングアイランド出身のハードコア/メタルコア・バンド。Helmet(ヘルメット)のような、オルタナティヴ・メタル寄りのハードコア・サウンドを展開し、日本では「ハードコアではない」と賛否両論を巻き起こした。

しかし彼らは、1990年代のニューヨーク・ハードコアのグルーヴィーな側面を突き詰め、オルタナティヴ・メタルと融合させることで、他に類を見ない個性を確立した。力強いスクリームと陰鬱なクリーン・ヴォーカルのコントラスト、変則的なドラム・パターン、グルーヴィーなギター・セッションは、メタルとハードコアの境界を曖昧にし、メタルコアの先駆けとも言えるサウンドを生み出した。

歌詞では、ボスニア戦争の大量虐殺をテーマにした「Ways To Destroy One’s Ambition(ウェイズ・トゥ・デストロイ・ワンズ・アンビジョン)」など、日常の苛立ちから政治的な怒りまで、幅広いフラストレーションを吐き出している。

しかし、4作目『From Bliss To Devastation(フロム・ブリス・トゥ・デヴァステイション)』では、グランジやハードロック、ニューメタルを融合させたオルタナティヴ・メタル路線へと舵を切ったものの、結果的にうまくいかず、2002年に解散。2008年に再結成し、現在も不定期ながら活動を続けている。
 

Vision of Disorder(ヴィジョン・オブ・ディスオーダー)


出典:Candlelight Records