New York Hardcoreニューヨークハードコア・シーンについて (その2)

女性バンド、SCUM CITY(スカム・シティ)、PMS/WENCH、BLOOD。フェミニスト問題や様々な社会問題を歌に取り入れたグループたちで、なかには女性が楽器を弾き、男性がボーカルを取るバンドもあった。ニューヨーク・ハードコア・シーンが男女間の差別がなく、風通しの良かったシーンであることを伝えている。

出典:PMS-WENCH
 

ユースクルー。クィーンズ地区を中心とした不良たちによるバンドが多かったニューヨーク・ハードコア・シーンを、YOUTH OF TODAY(ユース・オブ・トゥディ)を中心としたユースクルー・シーンが、一変させた。メタルからの影響が全くない、ピュアなハードコア・サウンドで、ナイキやチャンピオンなどのトレーナーやパーカー、スニーカーというファッションで、健全な人たちを取り込んだシーンとしても知られる。ポジティブなメッセージで、「喫煙しない」「麻薬を使用しない」「アルコールを摂取しない」「快楽目的のみのセックスをしない」というストレートエッジ思想を、アメリカ全土に広めたのはユースクルー・シーンだと言われている。

出典:No Echo
 
SICK OF IT ALL(シック・イット・オブ・オール)。クロス・オーバーバンドとユースクルーの後続であるポストハードコア・シーンに分断されていたニューヨークハードコアで、ネガティヴ・アプローチの怒声に金属質なベース音と硬派なギターで熱く男臭いサウンドスタイルで、ニューヨークに新しいスタイルのハードコアを持ち込んだ。怒声をメインにしたシンプルで男臭いハードコアは、当時、画期的なスタイルだった。

出典:last.fm
 

そして最後はニューヨーク・ハードコアとは何なのか?個々のミュージシャンに訊き、それぞれの見解を述べたところで、このDVDは終わる。

唯一個人的なの不満点を挙げるのなら、ストレートエッジを過激に突き詰めヴィーガンやアニマルライツまで行きついたERATH CRISIS(アース・クライシス)や、ポリティカル姿勢を打ち出していたレーガンユースの後継であるBORN AGAINST (ボーン・アゲインスト)、バッファーローシーン(ニューヨーク州だが市街地から500キロ離れている)について語られていないのが残念なところ。おそらくそこまで載せたら収拾のつかない作品になっただろう。それだけニューヨークのシーンはいい意味で煩雑していたのだ。

出典:Trailer Addict
 

ニューヨーク・ハードコアとは、最先端の情報や多人種、他ジャンルなどが多く集まる土地柄ゆえ、人との交流も活発で、雑多性のなかに混ざり、伝統という誇りのなかに集約されていく。いろいろなものを柔軟に取り入れアップデートしていくシーンなのだ。大都市がゆえに、流行りすたりもサイクルも早いが、それだけ新しい若手や新しいサウンドのバンドが出てくる土地柄でもあるのだ。そこが人の入れ替わりが乏しく、または多ジャンルや別人種を排斥し、閉鎖的で若者が育ちにくい環境だったゆえ、シーン自体が衰退していったほかの地方のシーンとの違いなのだ。だから現在でも、シーン自体が存続し、いまだに活気にあふれている理由なのだ。