アルバムレビュー

Manasik Karagar
『Narka Ko Gahirai』

ネパールはカトマンズ出身のパワーバイオレンス/マスコア・バンドの2作目EP。マスコアとメタルコアにビートダウン・ハードコアが入り混じった、かなりカオティックで、パワーバイオレンスをさらに激しく仕立てたサウンドを展開。

血管が切れそうな勢いの激しいテンションのヴォーカルと、激しいノイズと目まぐるしくフレーズが入れ替わるカオティックなギターと、ブラストビートなどに変化していく多彩なドラムが、不安や苛立ちや絶望が入り乱れた混乱した心の深淵を描き出していく。

アルバムタイトルは『地獄の奥底』という意味で、ドラッグやアルコールに関する社会問題と、心の内面に潜むダークサイドを深く掘り下げた内容がテーマになっている。俺たちはつねに善良な人間であろうと努めているが、全員の心の中に悪が潜んでいることを認めていると、インタビューでは発言している。

「महान व्यक्तित्व // Mahaan Byaktitwa」では、偉大な人物になるためには時として、友人や家族などの大切なものを失うことについて歌っており、「आत्मा सम्मान बिहिन // Aatma Samman Bihin」(自尊心の欠如)では、自分の望みをかなえるために、他人を陥れる卑劣な人間のわがままさについて歌っている。「नर्कको गहिराई // Narka Ko Gahirai」では自分自身との約束を破り、失望したまま地獄へ旅立ち、地獄の深淵のような心の内面を歌っている。

「थी // Saathi」(友人)では、薬物乱用をした生涯の友人からの裏切りについて歌っている。「निर्दयी संसार // Nirdayi Sansaar」(無慈悲な世界)では、無慈悲さで犯罪を犯す人物について歌っている。そこでは自分が社会で生き残るために無慈悲な野蛮人になったことを受け入れ、自責の念に駆られている。

歌詞全体からは、チベット仏教的な道徳観に基づいた因果応報のカルマや、善行の大切さを感じる。ストレート・エッジ思想を掲げたバンドで、ドラッグという悪行に対する恐ろしさを、緊迫感と激しさと突き抜けるような高いテンションと迫力に満ちたサウンドで、みごとに地獄を表現している。オリジナリティもあり、かなり素晴らしいバンド。

Wreckage(レッケージ)
『Our Time(アワ・タイム)』


コネチカット州出身のユースクルーの進化系ハードコア・バンドの1stミニアルバム。前作はYouth of Today(ユース・オブ・トゥディ)からの影響を多大に感じるユースクルーだったが、本作では変則的なリズムを取り入れた。さらにメロディックに荒々しく進化している。

ストップ&ゴーから、2転3転フレーズが目まぐるしく変わる展開、ブラストビートなどを取り入れた、メロディックギターと荒々しいコードギターが混ざり合うサウンド。ユースクルーからエモーショナル・ハードコア、コネチカット・ハードコアコアの伝統までをアプトプットした複雑なアレンジが魅力の作品だ。

『私たちの時間』と名付けられた本作では、環境破壊などをテーマにした前作とはうって変わり、生きる目的と歌った「Searching For Soul(魂を探して)」から、人生を彷徨い、自分に自信が持てないと歌った「Way To Survive (生き残るための方法)」など、正しいと思う真理の追求や迷いや逡巡など、深い内面世界を歌っている。良い時期に感謝し、それを当たり前のことと思わないことや楽観主義と疑念のバランスをとることがテーマになっている。

本作でも健全であろうとする姿や、試練や忍耐に耐えより良い未来にする人生訓、人生のために戦う信念を貫く姿勢など、建設的な信念が貫かれている。まさにユースクルー・リバイバルといえるタフガイや不良性のない中産階級的なアティテュードがいい。

Zygnema(シグネマ)
ICONIC(アイコニック)

インドはムンバイ出身のグルーヴ/スラッシュメタル・バンドの2枚のアルバムをはさに発表された1st EP。最高傑作。デビュー作の『Born Of Unity(ボーン・オブ・ユニティ)』ではMetallica(メタリカ)の影響が強い80年代のメタルで、2作目の『What Makes Us Human Is Obsolete(ワット・メイクス・アス・ヒューマン・イズ・オブソリート)』よりグルーヴィーに進化した。そして本作では、グルーヴィーなメタルはよりファンキーに進化し、デジタルと民族音楽とスラッシュメタルを掛け合わせた。インド的な神秘的なメロディーとデジタルが融合し、新世代のニューメタルと呼ぶべきサウンドに進化している。

歌詞はムンバイ人であることの誇りや心理について歌っている。「To Reach The Gods」では「欲望が、人生の調子を変える」と、節制しストイックなまでに心理を追究し、自身が信じる宗教への誇りについて歌い、インド文化への多大なる畏敬を感じる。

インドで亜種進化を遂げた新しいスタイルのニューメタル。彼らにしかない個性がある素晴らしい作品。