One Step Closer(ワン・ステップ・クローザー)
『This Place You Know(ディス・プレイス・ユー・ノン)』

ペンシルベニア出身のユース・クルー・リバイバル・バンドのデビュー作。Gorilla Biscuits(ゴリラ・ビスケッツ)から、TURNING POINT(ターニング・ポイント)、Have Heart(ハブ・ハート)などのエモーショナルでメロディックなハードコアから影響を受け、さらにブラッシュアップしたサウンドで、2020年以降の、最新型のエモーショナルでメロディックなハードコアを展開しているバンド。

 

エモーショナルでメロディックなハードコアをベースにしたサウンドは今作でも変わらない。だがさらに深化を遂げたサウンドを展開している。力強くメロディックなエモーショナル・ハードコアに、嘆きと憤りに満ちた怒声ボーカルが、まるで荒れたオフロードのように障害にぶつかりながらも進んでいく気迫に満ちている。その疾走するメロディーには、どこか内省的で、憂いと孤独が漂っている。そしてそのピークの頂点を迎えた曲が深い悲しみに彩られたピアノ曲の“Hereafter(ヒアアフタ)”。ここではいままで希望を信じて駆け抜けてきたことが徒労に終わったかのような、寂寥と憔悴に満ちている。

 

今作では失った愛への虚しさや憂鬱、孤独などがテーマになっている。楽しかったあのころを取り戻したい気持ち。痛みを乗り越え、自分自身が成長し変わるため、地元であるペンシルベニア州ウィルクスバリを離れる決意。悲しみと憤り。楽しかった思い出と街を離れる決意。そんな逡巡で心がゆれている。

 

個人的には、Touche Amore(トゥーシェ・アモーレ)と近い位置にあるバンドのように感じた。だがOne Step Closer(ワン・ステップ・クローザー)のほうが、よりエモーショナル・ハードコア度が高く、迫力あるサウンドを展開している。この悲しみと憤りと離れる決意に彩られた作品は、心に訴えてくる悲しみがあり、今年のハードコアのベスト10に入る素晴らしくいい作品。

DRAIN(ドレイン)
『California Cursed (カルフォルニア・カースド)』

2020年に発表したカルフォルニア州サンタクルズ出身のクロスオーバー・ハードコア・バンドのファーストアルバム。EPとシングルを合わせると、4作目となる作品になる。いろいろな音楽性を試したEPを経て発表された作品とだけあって、彼らの個性が確立した作品として仕上がっている。

 

そのスタイルは、Merauder(メラウダー)やMADBALL(マッドボール)のニューヨークのニュースクール・スタイルにPower Trip(パワー・トリップ)のクロスオーバーをブレンドさせたサウンド。そしてそこにSuicidal Tendencies(スイサイダル・テンデンシーズ)やCOCOBAT(ココバット)のような格闘技やスケーターとリンクしたハードコアの楽しさが漂っている。

 

『California Cursed (カルフォルニアは呪われている)』と名付けられた今作では、スラッシュメタルなリフをハードコアの重く金属質な音で弾き、高速なモールス信号のように急激に遅速の切り替わっていくめちゃくちゃなサウンド。

 

だがそこにはサーフィンでサメに襲われるリスクを冒しながらも、ビッグウェーブに挑んでいくような、スリリングで過激なハードコアがある。不協和音をものともせず、自分たちしかない個性的なサウンドを目指しているチャレンジ先進を感じる。どことなく90年代の懐かしさを感じつつも、海の魅力と楽しさが漂っている。好感の高いハードコア・バンドだ。

DESCENDENTS(ディッセンデンツ)
『9TH & WALNUT(9TH &ウォルナット)』

78年から活動を始め、Dickies(ディッキーズ)やAgent Orange(エージェント・オレンジ)と並び、西海岸のメロディック・パンクの創始者のひとつといわれるDescendents(ディッセンデンツ)の8作目。

 

今作はボーカルのMiloが加入以前に書かれた未発表曲を、78年当時のメンバーであるBill Stevenson(ビル・スティブンソン)(Dr)、Frank Navetta(フランク・ナヴェッタ)(Gt)、Tony Lombardo(トニー・ロンバルド)(Ba)の3人と、ボーカルのMilo Aukerman(ミロ・オーカーマン)を加えた4人でレコーディング(一部楽曲は2020年レコーディング)した作品。過去にFrank Navetta(フランク・ナヴェッタ)がボーカルを担当していた1st EP収録の“Ride the Wild(ライド・ザ・ワイルド)”と“It’s A Hectic World(イッツ・ア・ヘクティック・ワールド)”の2曲を今回Milo Aukerman(ミロ・オーカーマン)がボーカルを執った新録バージョンも収録。デイヴ・クラーク・ファイヴのカヴァー「Glad All Over」も収録。デビュー作『Milo Goes To College』以前の初々しいDESCENDENTS(ディッセンデンツ)が、ここにある。

 

77年から80年に作られた曲だけあって、そのサウンドは、Ramones(ラモーンズ)直系のシンプルで荒々しいパンクな曲が多い。初々しい初期衝動にあふれ、スピーディーに簡潔に終わっていく。荒々しくもメロディックなギター。独特のスピード感で勢いよく前へ倒れかかるベース。そして憂いと苛立ちを含んだボーカル。彼ららしい個性はこの時点で確立されている。

 

そしてなによりDescendents(ディッセンデンツ)の最大の魅力といえば、反抗やコンプレックスやうまくいかないことへの苛立ち、失恋の悲しみや傷心などの、リアルな思春期の心情を歌った歌詞にある。

 

今作では、ごく初期の作品とだけあって、プリミティブな衝動にまかせた歌詞の内容が多い。“Crepe Suzette(クレープシュゼット)”では、<チャンスをください。私はあなたを(の心を)撃ちます>と歌い、“You Make Me Sick(あなたにはうんざり)”ではタイトル通り、嫌いな理由を語り、“Lullaby(子守歌)”では、<みんなあなたがヤリマンであることを知っている>と、だれもが高校生のときに一度は通るような、好きだった女性に失望したときに感じる、怒りや幻滅などを率直な言葉で歌っている。

 

好きだった女の子がじつはヤリマンだったとか、身近でだれもが経験するような失恋感覚だが、トレンディードラマでは決して語られることがなく、だれも歌詞にすることがなかった内容だ。そんな庶民感覚で始めて歌ったのが、DESCENDENTS(ディッセンデンツ)なのだ。その失恋への独特な共有感覚こそが、いまだに根深い人気がある理由なのだろう。

 

ひさびさに忘れていた甘酸っぱい失恋感覚がよみがえってきた。そういう感覚を取り戻せただけでも、すごく幸せな気分になった。この初々しい初期衝動にあふれた作品は、個人的にはかなり好きだ。