アルバムレビュー

ENVISION(エンヴィジョン)
『The Gods That Built Tomorrow (ザ・ゴッテス・ザット・ビルト・トゥモロー)』

フィラデルフィア出身のストレートエッジ・バンドの2作目のフルアルバム。ストレート・エッジとクリシュリナ・コアが融合したバンド。ユースクール系ハードコアをベースに、ブラストビートや、叙情的なメロディーギターなどを加えた前作と比べると、今作ではよりメロディックで、パワフルな作品に仕上がっている。

今作もユースクール系ハードコアをベースにしたサウンドで、そこにストップ&ゴーやブラストビーやリフ、メロディーパートなどを加え、より円熟味が増している。

そして嘆きのような叫び声のボーカルには、苦悩が入り混じった感情が漂っている。『明日を築く神々』という意味のタイトルの今作では、人生の苦しみから逃れられないと歌った“Advent(降臨)”から、死にゆく世界の苦しみが聞こえると歌った“This Dying World(死にゆく世界)”など、人間の業や過ちなど、宗教的な倫理観に基づいた内容が目立つ。

自分自身の過ちや苦悩、人々の犯した罪や業に対して宗教的な救いを求めた歌詞には、知識を身につけ、困難や壁を乗り越え成長しようとする建設的な考えがある。

Shelter(シェルター)のようなポップさや明るさはないが、ヘヴィーで異なるアプローチの宗教観の強い作品。

Wreckage(レッケージ)
『Self In All (セルフ・イン・オール)』

コネチカット州出身の2作目のEP。ユースクルーの進化系バンドで、地元の雄であるユース・オブ・トゥディからの影響を多大に感じる。そこにブラスト・ビートやストップ&ゴー、変則的なリズムのギターを融合し、進化させた。

シンプルなギターコードを中心にしたサウンドながらも、メタル気のないハードコア・ギターに特徴のあるバンドで、ザクザク刻むリフから、裏打ちのリズムのリフ、変則的なリズムのリフなど、バラエティー豊かなギターが魅力だ。

『自己のすべて』と名付けられた今作では、 <繁栄への道を突き進んだ、道に迷った、真実から目を背け、嘘を追いかけてきた、狂気しかもたらさない>と歌った“Can’t Let This Die”から、<世界は地に堕ちた、もう何も残っていない>と歌った“What’s Left”など、人間の繁栄がもたらした弊害である環境破壊について歌っている。そこには、悪くなった世界から、より良い未来にするための試練や忍耐、人生のために戦う信念を貫く姿勢など、建設的な感情であふれている。

まさにユースクルーのど真ん中をいく健康的で健全なアティチュードのハードコア。ベジタリアンやストレートエッジを取り入れたユースクルーに、環境問題を取り入れた、進化系バンドなのだ。

SCARAB(スカラベ)
『Seeking Chaos And Revenge After Betrayal(シーキング・カオス・アンド・リベンジ・アフター・ビトレイヤル)』

ペンシルベニア州フィラデルフィア出身の2作目のEP。元YEAR OF THE KNIFE(イヤー・オブ・ザ・ナイフ)のTyler Mullen(タイラー・マレン)と、元Ecostrike(エコストライク)で活躍したギターのLennon Livesay(レノン・リヴセイ)を中心に、結成されたバンド。

超高速からブレイクダウンへ目まぐるしくテンポが変わっていくドラム、荒々しくノイジーなギター、激しくハイテンションの怒声ヴォーカルが、理性が吹き飛ぶような怒りと激しさとぶつけていく。Soul Glo(ソウルグロウ)の激烈ハードコアに、パワフルさと激しさと静けさのコントラストを加えたフィラデルフィア伝統の荒々しいハードコアを進化させたサウンド。

『裏切りの後の混乱と復讐を求めて』というタイトルが示している通り、歌詞ははらわたが煮えくり返るような怒りや復讐について歌っている。

激しい怒りと衝動の歌詞とサウンドが、理性が吹き飛ぶような尋常でないエナジーを爆発させている。まさにフィラデルフィア・ハードコアの個性の神髄をいく作品。