アルバムレビュー

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Brain Damage In The Middle East(ブレイン・ダメージ・イン・ザ・ミドル・イースト)

イラン出身のハードコア/パンク・バンドのデビューEP。The Exploited(エクスプロイデッド)やDischarge (ディスチャージ)などのUKハードコアからの影響が強い激しく尋常でないテンションのサウンドで、怒りや憤りといった感情を歌っている。

モコモコとした音やブラストビートなどを交えた変則的なリズムのドラムに、甲高い絶叫のヴォーカル、ハードコアのノイジーなギターが、金属がすれるような独特な音を奏で、テクニカルな要素に詰め込んだ。2ビートのファストな曲が、クラストなどが変幻自在に変わっていくなど、ローカル進化を遂げた独特なサウンドを展開している。

歌詞は、モスクに強制的に連れていかれることに疑問を持った「C.R.E.A.M.(クリーム)」から、処刑、殺人、肉体を貫く銃弾など、ファシストへの怒りを歌った「Murderer(マーダー)」、 俺に何をしろとか言うなと、人種差別について歌った「Misanthrope (人間嫌い)」、テロリスト、俺を刑務所に放り込むと、帝国主義への怒りを歌った「No Man’s Life(ノー・マンズ・ライフ)」など、イランという自由のない国に住んでいる憤りや葛藤、息苦しさを歌っている。

10年位前にアメリカでタクヮコアというムスリムによるハードコア・シーンがあったが、そこでも感じたジレンマや憤りが、ここでも感じる。アメリカというグローバルな世界秩序に対する怒り、イランという自由のない国に対する怒り、二律背反する感情が、やるせない気持ちや、葛藤や逡巡、憤りとなって襲い掛かってくる。やり場のない怒りに満ちた作品なのだ。

Paint It Black(ペイント・イット・ブラック)
『Famine(ファミン)』

Lifetime(ライフタイム)とKid Dynamite(キッド・ダイナマイト)でのギターで知られるヴォーカルのDan Yemin(ダン・イェミン)を中心としたフィラデルフィア出身の激烈ベテラン・ハードコア・バンドの4作目。ギターのフレーズがしっかりとしたハードコアパンクに近いサウンドで、アルバムによっては、メロディックな作品やガレージっぽい作品も展開していた。本作ではストップ&ゴーやシンガロング、扇情的なメロディーギターなどを交えたハードコア/パンクを展開している。

そのサウンドはBLACK FLAG(ブラッグ・フラッグ)やCIRCLE JERKS (サークル・ジャグス)などの彷彿とさせる屈強でテンションが高くパワフルなハードコア。とくに荒々しいギターが印象的で、宗教や陰謀論の狂人、アメリカの偽善といった内容がテーマになっている。

歌詞は、<俺たちがつながりを断ち切り、真実と嘘の区別がつかなくなったときに、それが権力の手に役立つ>と歌った「Exploitation Period (搾取時間)」から、<頂点にいるのは孤独だと思うか? 底辺に落ちてみろ>と歌った「Serf City, U.S.A(サーフ・シティ・USA)」など、庶民階級層が分断することによって、富を搾取する富裕層への怒りを歌っている。まさにパンクらしい反体制を貫いている。

サウンド的にも歌詞的にも80年代的なノスタルジーを感じるが、いまや失われつつある、富裕層や体制に向かう、怒りに満ちたパンク精神は素晴らしい。

Bent Blue(ベント・ブルー)
『So Much Seething (ソー・マッチ・セッティング)』

サンディエゴ出身のポストハードコア・バンドの3作目。Some Girls(サムガールズ)やDrive Like Jehu (ドライブ・ライク・ジェフ)などのサンディエゴ・ハードコアの伝統であるカッティング・ギターの伝統を受け継ぐバンドで、そこにJawbox(ジョーボックス)などのギターフレーズを融合した。

サインディエゴの伝統である苛立ちを吐き捨てるような絶叫ヴォーカルと、エッジの効いたギターに、エモーショナル・ハードコアのメロディックなギターが絡む展開。歌詞は「自分の考えが悩まされていることはわかっている」と歌った“The Other Half”から、「見通しは暗い、もう耐えられない 実証されたものはなく」などの“Home In My Head”など、エモらしい内面の葛藤を歌っている。

良心との葛藤や、上手くいかない人生ややるせない憂鬱な気分を吐き捨てる絶叫とセンシブなメロディーが魅力で、サンディエゴ・ハードコアの伝統とTouché Amoré以降のエモーショナル・ハードコアが見事なまでに合わさった画期的な作品。