Al-Thawra(アル‐サワラ)
『Edifice(エディフィス)』

より激しく攻撃的に進化した10年発表の2作目。今作を発表する前に、まず彼らの行動について触れておきたい。08年12月27日、イスラエル軍はパレスチナのガザ地区に空爆を行った。この日パレスチナ人が、200人犠牲となった。さらに翌年の1月17日には、イスラエルが地上戦を決行し、そこでもパレスチナ人が、1300人殺された。(イスラエル側の死者は13人)事態を重くみた国連調査官のリチャード・フォークは、イスラエルとパレスチナの双方の意見を訊き調べ、「イスラエルによるパレスチナ人への集団的懲罰は、人道に対する罪(イスラエルがジェノサイドをしているという意味)」という見解を示した。

 

Al-Thawraはイスラエルによる大量虐殺が行われているこの事件について、“Gaza: Choking on the Smoke of Dreams,”という怒りと悲しみを歌にした曲を、一年後の09年12月に、彼らのホームページにて、無料ダウンロードで発表した。一年後に発表した理由は、この出来事が忘れさられないためと、二度と同じ過ちを繰り返して欲しくない意味合いをこめて、わざと先伸ばしにしたそうだ。

 

11年1月29日には、エジプト、チュニジアの革命について、自らのブログにて思いを語った。エジプトとチュニジアは、食料と選挙権を剥奪した独裁政権から民主主義に代わったが、けっして欧米の資本主義や共産主義を押し付けないでほしいと訴えた。アラブ諸国による自分たちのスタイルの民主主義を確立させるべきだと主張している。また内戦で使われている武器や弾薬が、すべてアメリカ、ヨーロッパ製であることに着目し、これ以上アラブ諸国に武器を輸出するべきでないと、まず平和が第一にあることが大切だと、訴えかけた。この時期、彼らはアラブ側の立場に立って、政治的発言を繰り返してきた。

 

そんな発言を経て制作された今作は、パーソナルな内容が多かった前作以上に、政治的な姿勢が貫かれている。たとえば、先ほどの“Gaza: Choking on the Smoke of Dreams,”では、パレスチナカザ地区へのイスラエルの爆撃について歌っている。そこには地上で繰り広げられている破壊と絶望を歌い。強者が一方的に弱者を空爆する惨状に怒りをこめて、痛烈にイスラエルを批判している。

 

その怒りや憤りをサウンドに叩きつけるように、今作ではより激しくパワフルで攻撃的に変化した。基本路線であるハードコアに民族音楽との融合に変わりはない。だがドゥーム系のハードコアは、初期ナパームデスのようなグラインド・コアやニューロシス系のクラスト・コアに強化され、アラブのメロディーはインド音楽へ変化した。まるで音が割れ電源がショートしたような激しいギターノイズが、音域限界のギリギリで鳴らされている。そしてなにより印象的なのが、シタールを取り入れたインド音楽のメロディー。憎悪と怨霊のデス声とノイズが地獄の地鳴りのように響くなか、まるで天国から光の道が照らされているように、妖しく神秘的に鳴り響いている。死の快楽のような音で、ある意味、激しいノイズギターやデス声よりも、精神的に重い音が鳴らされている。

 

ほかにも2ビートのスピーディーなハードコアや、静けさから一気に激しく変わっていく曲など、いろいろな要素を取り入れ、ヴァラエティーにとんだ作品に仕上がっている。そして変化を決定付けるのがラストの“Outro”。そこでは戦後の廃墟のように不気味に響く10分ほどの、インダストリアル系の長いイントロのあとに、シャンペと尺八のような笛のみの曲が始まる。そこでは戦争で失った街と人々への寂寥と喪失、虚しさが漂っている。

 

たとえばシェルターなど、過去にインド音楽を取り入れたハードコア・バンドはいる。だがこれほどメロディーにも死の恐怖を意識させるバンドもいないだろう。それほど彼らの音楽は、アラブの現実を直視し、リアルに捉えている。弱者が強者によって虐げられるという現実を嫌が上でも突きつけられるのだ。前作とはまた違った個性があり、いい作品だ。