The First Two Records Bikini Kill Bikini Kill Records 2015-06-29 |
90年代を代表するRiot Grrrl(ライオット・ガール)と呼ばれたフェミニスト運動のシーンの中心バンドであった、ビキニ・キルの94年にLPで発売された初期2枚のEP(S/T EP, Yeah Yeah Yeah)をカップリングし、2015年に再発された編集盤。
具体的な内容を説明すると、1から6曲目までが、91年に発売されたセルフタイトルEPで、1から4曲目までは91年7月にフガジのイアン・マッケイによって録音された曲だ。5曲目は91年に制作されたデモで、6曲目は91年の4月4日にワシントンDCのサンクチュアリ劇場で演奏されたライヴを収録している。そして7から20曲目は93年に発表されたLP『Yeah Yeah Yeah』を収録。その内容はワシントンDCのセント・ステファンズで行われたライヴを収録している。
7から13までは93年に発売されたLP盤からで、91年の12月27日にワシントンDCのセント・ステファンズで行われたライヴを収録。13から20は2014年に25周年を記念して発売された拡張版に収められていた曲で、うち4曲はワシントンDCの地下練習スペースで記録された曲で、そのほかの3曲はライヴ音源を収録している。
あらためて聴いていると、彼女たちのサウンドとは、ラモーンズ直系のシンプルなパンク・ロック。録音状態が悪いせいか、そんなに荒々しさや迫力を感じない音作りだ。ジョーン・ジェットのようなはち切れんばかりの男勝りなロックや、パティー・スミスのスローテンポから急激にピッチが上がり、冷静なインテリジェンスから激昂に変わっていくような前衛的で文学性を前面に出したロック・サウンドと比べると、主だった個性がないのも特徴だ。
強いて個性を挙げるのなら、ヒステリックで甲高い金切り声のボーカルくらいか。あとはいたって普通のパンク・ロックだ。だがこの普通という感覚が彼女たちにとっては重要な要素となる。なにせ彼女たちが求めていたことは、男性からすればいたって普通な権利だからだ。彼女たちが一貫して歌い主張してきたのは、女性の権利。女性であることによって会社での出世が絶たれたり、同じ学歴で同じ能力の男性より下の職業しかつけないアメリカ社会への不満。女性大統領が存在しない政治への不信。性差別をなくし男性優位社会へピリオドを打つ。ただ世の中に男女が平等であるべきことだけを求めていたのだ。だから彼女たちはいたって普通な女性であることを強調してきたため、ロックバンドという局面から見れば、そんなに注目されるほど際立った個性のある存在に映らなかった。ごく普通の女性らしい格好と、特徴のないシンプルなパンク・ロックという二つの要素が彼女たちの評価を希薄なものにしてしまったのだろう。それがライオット・ガールというシーンをメディアがあまり取り上げてくれなかった理由ではないか。
だがライオット・ガールというシーンと彼女たちのフェミニスト思想を全面に掲げたパンク・ロックは、マイナー・スレットのストレート・エッヂや、バッド・ブレインズのポジティヴ・メンタル・アティテュードに匹敵するパンク思想であることは間違いない。思想の面を評価すれば、隠れた名盤なのだ。