Dew It/Live Crucial Chaos Wnyu [12 inch Analog] Beyond Revelation 2015-10-01 |
ニューヨーク・ハードコア界では知る人ぞ知るまぼろしな存在であったビヨンド。88年から89年にかけてわずか1年間しか活動しなかったバンドで、ユースクルー・シーンの先駆者にあたる。のちにメンバーは、BOLD、インサイド・アウト、クイックサンド、BURN、シェルター、108などといった、名だたるニューヨーク・ハードコアバンドで活躍したことでも知られている。
28年の月日を経て発表された今作は、ヴァイナル盤のみの発表で、88年にリリースされたデモ・テープ『Dew it』から8曲と、アメリカのラジオ局WNYUでの、ハードコアパンクラジオショウ”Crucial chaos”でのラジオライヴセッション14曲を加えた、計21曲がアルバムに収録されている。そこに20ページのブックレットを添付した内容。1年という短命な活動のバンドであったが、活動のすべてが今作に網羅されている。
今作だが、初期衝動という気迫と熱意に満ち、演奏力よりも勢いだけで突き抜ける荒々しい演奏だ。肝心のサウンドだが、ハードコアの黎明期に活動したバンドだけあって、ゴリゴリのハードコア、という音ではない。要所要所に初期パンクっぽいメロディーパートを導入した、ハードコアの原型といえるサウンドだ。
スローテンポじっくり聞かせるボーカルが、いきなりなだれが襲ってきたかのように変化するノイズギターの洪水とばたばたと躁病的に叩くドラムが特徴の曲や、わずか46秒で終わるファストな曲、あとにユースクルーシーンの特徴となったストップ&ゴーの変則的なリズムや、クリシュリナ教を取り入れた高音ギターのギターメロディーといったサウンドスタイルは、このバンドが先駆けといえるだろう。
性急なスピードと2,3コードという大まかなパンク・ハードコアのサウンド・スタイルこそ遵守しているが、ハードコアというサウンドが確立される前の、いろんなことにチェレンジした実験的なサウンドでもあるのだ。その後メンバーたちがシャルターやクイックサンドといったバンドで活躍し、ここで演ったサウンドをブラッシュ・アップさせ、自分たちのバンドの個性を確立し、ユースクルー・シーンの代名詞といえるサウンドを確立した。ここにはまさにユースクールの原型があるのだ。ニューヨーク・ハードコアのユースクルーの歴史を知るうえでは重要な作品だ。