Pink Lemonade Closure In Moscow Sabre Tusk 2014-05-08 |
約5年ぶりとなる2作目。前作のアジア、メタル、ジャズ路線から一転、今作では70年代のサイケデリックに焦点を合わせた。世界観が180度変わった作品に仕上がっている。
今作でもマーズ・ヴォルタやディア・ハンター、dredgなどからの影響が強い、プログレやサイケデリック、メタル、ファンク、ダンス・エモなどを切り貼りしたサウンド・フォーマットをベースにしている。今作も情報過多になるほどいろいろなジャンルの音楽を詰め込んでいる。取り入れた音楽こそ180度違うが、サウンドフォーマット自体は前作からあまり変わっていない。だが前作との一番の違いは世界観にある。前作も西洋世界から見た奇異なものを追求していた。そういった意味ではブレていないが、インドなどのエスニック色が強かった前作と比べると、今作では不思議の国のアリスのような小鳥がさえずるおとぎの世界を追求している。
たとえば、“ザ・フール”と“Pink Lemonade”のイントロは違うメロディーだが、あえて同じメロディーが繰り返していると錯覚するような、同じ夢を繰り返すデジャヴの効果を演出している。また“Pink Lemonade”の6分ごろから始まる女性ボーカルの歌声には、まるで精神病者患者のような無邪気で無垢な狂った喋り方がある。
そこにあるのはドラッグでトリップするようなサイケデリックな幻覚世界。今作では不思議の国のアリスのようなメルヘン世界に、ロバート・アントン・ウィルソン著の“サイケデリック神秘学――セックス・麻薬・オカルティズム”を合わせた内容ががテーマになっている。麻薬トリップで見たメルヘンな世界の幻覚を、サウンドに置き換えた。
ぼくがこのバンドを評価している理由は、いろいろなフレーズの切り貼り方にある。初期マーズ・ヴォルタやディア・ハンターにインスピレーションを受けたフレーズの切り貼り方なのだが、その組み立て方がとても独特だ。たとえばアメリカのバンドではあまりいない、ファンク・ギターやコーラスをベースにしている。エモーショナルに感情が高ぶっていくボーカルが、いきなりなよなよしたソウルフルなコーラスなど、意外性のある展開が目立つ。80年代のような超絶テクニックの速弾きメタルのギターソロを取り入れたり、アメリカやイギリスでは忘れ去られている古きよきものを引っ張ってきて、オーストラリアという土地柄の独自の加工を施している。その切り貼りの仕方が、アメリカやイギリスのバンドではありえない発想なのだ。それが個人的にこのバンドを高く評価している理由なのだ。
今作のメルヘンなラリった世界もすばらしかった。だが、けっして大人しいアルバムではない。総じてテンションが高くエモーショナルだった。前作よりも確実に成長を遂げて、すばらしい作品に仕上がっている。