リード・ミュージック/スピーク・スパニッシュ デサパレシドス バッドニュース音楽出版 2003-01-22 |
03年に発表されたアメリカ中西部ネブラスカ出身の5人組によるバンドのデビュー作。デサパレシドスとは、スペイン語で戦争によって殺害された「行方不明者」という意味で、ブライト・アイズとして知られるシンガー・ソングライター、コナー・オバーストと彼の幼馴染みのデンバー・ダリーを中心に結成されたバンドだ。ボーカル兼ギタリストであるコナー・オバーストといえば、このバンド以外にもうひとつ掛け持っている、ブライト・アイズのボーカリストとして有名だ。世間的に地位も名声も手にしているブライト・アイズ以外に、コナー・オバーストがこのバンドを始めたという理由には、おそらく真逆のベクトルのサウンドと感情を表現したかったからだろう。
その真逆のサウンドとは、ノイズギターをベースにしたエモーショナル・ハードコア。だがほかのエモバンドとはあきらかに異なるサウンドを展開している。ベースになっているのはペイヴメントやセバドーなどのローファイの影響を感じるノイズギター。意図的に質の悪い音響器具を使い、ノイズを増幅させ、そこに浮遊感あるスペイシーなメロディーを合わせた。そこから感じるのは、いままで自分が築いてきたものをハンマーで粉々にするような爽快な破壊衝動。本来エモとは、繊細で触れれば崩れそうなデリケートさを穏やかなメロディーフレーズに載せ、激しいギターと高鳴るドラムングと叫び声で激情を表現し、静と動の感情がアップダウンしていく展開の音楽。だがここではセンシブな感情や内向的な表現はまったくない。あるのは外へ向かってストレスを発散していくスカッとした爽快感だ。おそらく感情のベクトルが外へ発散へ向かっている理由は、ブライト・アイズでじめっと暗いアコースティックで、音数の少ないミニマムなサウンドを追求し、静的でダウナーな感情を表現しているからだろう。だから必然的にうるさくノイジーなサウンドで苛立ちを叫びたくなったのではないか。その理由がこのバンドを立ち上げた動機ではないだろう。
とはいってもほかのエモバンドとは違い、しっかりとした個性がある。音質が悪くとことんノイジーで叫び声を上げるサウンドは、いままでエモ・バンドにはなかったサウンドだし、感情のベクトルも外へ向かっているエモはなかった。なにより、繊細な美しさを追求するエモバンドとは真逆に、あえてダーティに不快を貫こうという姿勢もいい。個性があるエモバンドを10つ挙げるなら、間違えなくその中の一つに入ってくる作品だ。