FAR(ファー)
『at night we live(アット・ナイト・ウィ・リヴ )』

アット・ナイト・ウィ・リヴアット・ナイト・ウィ・リヴ
ファー

ディウレコード 2010-06-01
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じつに12年ぶりとなる新作。従来のポスト・ハードコア路線から、90年代のヘヴィネスを追及したサウンドに変わった。もはやここまでくるとポスト・コアではない。だが前作の叙情性とヘヴィネスをさらに融合させ、発展、進化させた。その内容は最高傑作といえるほど、クオリティーの高い作品に仕上がっている。

 

ここではハードコア特有のストレートなリフや重いグルーヴ感はない。執拗に繰り返す1コードのリフや、引きつったような音を出すギター、重くねっとりとシリアスな雰囲気を紡ぐベースなど、後期ソニックユースやコーンなどの近代ヘヴィネスからの影響が窺える。

 

そして叙情性も進化させている。いままではネオサイケやスマッシュキング・パンクプキンズの影響が強かったが、ここではサーズディーなどの00年以降の美しいメロディーを参考にしている。蜃気楼のように幻想的なスライドギターや、軽やかで繊細なメロディー。自分の存在が小さく感じてしまうほど、広大に広がるギターの音。叙情性が内面の繊細さから、外の世界の美しさを表現する方向に向かっている。

 

そこにはもはや孤立におびえるジョナーの弱々しい姿はない。孤独を受け入れた決意の強さに満ち、渇いた心を癒すような安らぎがある。弱さを知ったうえでの前向きな気持ちがあるからこそ、感動できるのだ。

 

00年以降、メタルやパンク関係なく印象に残るギターフレーズを切り貼りするバンドが多い。たとえるなら○○っぽい音とか、○○と○○を足した音など、そんなバンドが多くを占める。イマジネイティヴにあふれたバンドが少なくなった。そんなか、90年特有のイマジネーションにあふれたサウンドで、ロックの新しい形を提示した。もはやいままでのファーらしさこそなくなってしまったが、ほかのバンドの模倣はいっさいない。これほどオリジナルティーにあふれるサウンドを展開しているバンドは現在では珍しい。