Shai Hulud(シャイ・ハルード)
『Misanthropy Pure(ミサンスロピー・ピュア)』

Misanthropy PureMisanthropy Pure
Shai Hulud

Metal Blade 2008-05-25
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08年に発表された3作目。これがじつに5年ぶりとなる作品。前作同様に今作も発表するまで、じつに紆余曲折があった。前作を発表した後、ボーカルのGeert Van Der Veldeが脱退した。その煽りを受けてバンドは解散。そしてギターのマットを中心に、ザ・ウォームス・オブ・レッド・ブラッドというバンド名で活動を再開した。そしてアルバムが完成。その作品をマットの友人に聴かせたところ、シャイ・ハルードと変わらない個性が出ていると言われたという。なら世間で知れ渡っているシャイ・ハルード名義で活動したほうが得だという事で、バンド名を元に戻し、メタルレーベルの名門で知られているメタルブレイドと契約した。

 

そんな紆余曲折を経て発表された今作では、カオティック・ハードコアの要素を取り入れ、さらに混沌とした展開に。前作の叙情コアから、さらに進化している。ボーカルがマット・マザリーに代わったが、前任のGeert Van Der Veldeと比べても、遜色のないデス声で、まるで地獄のうめき声のよう絶叫だ。救急車の警告音のように2つの音階が行き来する頭の中の混乱を表現したようなメロディー。急激に速くなったと思ったら、遅くなっているリズム感を無視したドラム。そこには挑発、哀れみ、魂、精神、苦しみ、愛、憎悪といった感情が、走馬灯のように、目映く頭の中を駆け巡っていく。

 

日本語で『純粋な人間嫌いと名付けれた』今作では、人間の愚かさや無知に対する不満にスポットを当てている。たとえば“Venomspreader”では、<腐食するこの苦しみの形こそ憎悪をしみこませている~大量にはびこる毒の汚染から守ろう>と、人を憎しむことについて歌い、“ザ・クリエイション・ルーイン”では、<悲しみのなかで殺されていく、苦しみを正当化するために祈れ。~命という幸福を無駄に費やした。死でしか俺たちは一体となれない>と、お互いが生きている以上、憎しみや、悲しみ、苦しみを与えてしまう。お互いが死んでから出ないと共有する事ができないと、独特の死生観を語っている。“ミサンスロピー・ピュア”では、<憎悪を通じて命を守る、憎しみのなかから希望が生まれる、怒りの中から洞察力を掴み取る>と、憎悪に対する正当性と、憎悪から人生教訓を学ぶ事が多いと語っている。そして3曲くっつけて組み曲になっているハードコア・オペラの“コールド・ロード・クワイタス”では、悪夢を墓場へ持っていくという結末から始まり、愛とは憎しみと苦しみを生むものだけど、その痛みこそ呼吸し生きている実感だと語っている。そして3章で、自分の毒を手放してお前にどれほどの力があるのか、試そうと、未来について語っている。歌詞の内容は哲学的で、彼らが経験し、感じた人生訓がある。そしていささか教条的でもあるが、徹底した人嫌いに徹している。そこまで人を嫌わなくてはならない理由は分からないが、どうやら隠されたテーマとして、人間が慈悲の気持ちや理解する気持ちを持てば、平和と調和への道に進むのに、細かい気配りに気付こうとしない人々に対する苛立ちがあるようだ。

 

歌詞的にはいささか行き過ぎている側面もあるが、サウンドはメロディーに重点を置きながら、多様なフレーズをぶち込んでカオティックになっているが、総じてヘヴィーさは失われていない。しかもハードコアの怒りは健在だ。そういった意味では確実に成長の跡を感じる作品だ。個人的には前作よりも好きだ。