ACxDC(アンチクライスト・デーモンコア)
『Satan Is King (サタン・イズ・キング)』

ロサンゼルス出身のパワーバイオレンス・バンドの2作目。Antichrist Demoncore(アンチクライスト・デーモンコア)を略してACxDC。かの有名なオーストラリアのロック・バンド、ACxDCと同じ表記をしているバンドだ。

 

日本語で<反キリストの悪魔コア>というバンド名が示す通り、サタニズムを掲げている。そこにヴィーガン・ストレートエッジを加えた。サタニズムとヴィーガン・ストレートエッジの奇妙な融合というコンセプトを掲げ、モノクロのジャケットで反戦や反核を掲げたバンドが多いパワーバイオレンス界でも、若干異なる立ち位置にいるバンドなのだ。

 

サウンド的にはストレート・エッジやサタニズムのバンドからの影響はあまり感じられない。ベースにあるのはSPAZZ(スパッツ)からの影響。そこに怨霊のようなドスの効いた低音と、高音の悲鳴、自然に歌う3種のシンガロングや、Discharge(ディスチャージ)のような2ビートと2コード、ブラストビートと重く金属質なギターを加え、ファストで、迫力のあるサウンドに仕上げた。古典的なハードコアをパワーバイオレンスのファストなサウンド融合した。画一的なサウンドになりがちなパワーバイオレンス界で、バラエティー豊かなサウンドを展開しているバンドなのだ。

 

『サタンは王様』と名付けられた今作は、Kanye West(カニエ・ウェスト)が発表したアルバム『JESUS IS KING(ジーザス・イズ・キング)』のアンチテーゼとして、タイトルが付けられたそうだ。「サタンは反抗的な解放者で、キリストは権威主義者で服従を求める」。と発言し、神のための創造はサタンのための破壊に変わり、神への忠誠はサタンへの反逆に変わっている。そこには子羊のような従順さや救いを求めるよりも、敵対しても助けを求めず自分の力の切り抜けるといった真逆の考えがある。権力への反抗、不快で邪悪なサウンドの追求といった、キリスト教の教えや音楽と真っ向から対立している。

 

前作と比べ、よりノイジーに、より激しく進化した。高音の叫び声はより絶叫度を増し、低音のうねり声はより邪悪さを増している。スローテンポからいきなり雪崩のようなブラストビートに急激にピッチが変わりカオスと化していく。ところどころにMADBALL(マッドボール)のようなニュースクール・ハードコアからの影響を感じる。パワーバイオレンスとニュースクール・ハードコアを合わせたようなサウンド。そこには苛烈な激しさと鼓膜が破れるようなノイズにまみれた邪悪さ感じる。

 

タイトルやロゴのパクリながら、それを嘲笑に変えるシニカルで悪意に満ちた独特のユーモアが特徴的。パワーバイオレンス界でも独特なサウンドを展開しているバンドで、死神をコンセプトにしたTwitching Tongues (トゥィッチング・タングス)と同様に、次世代のハードコアを象徴するバンドなのだ。