The Ghost Inside(ザ・ゴースト・インサイド)

ロサンゼルス出身のメタルコア・バンドの、じつに6年ぶりとなる5作目。彼らといえば、Unearth(アンアース)やShadows Fall(シャドウズ・フォール)から影響を受けたメタルコアをベースに、メロディックパート加えた、メロディック・ハードコア/メタルコアと呼ぶべきサウンドが特徴のバンドだ。プログレッシブなメロディーを取り入れた『Returners (リタナーズ)』。よりヘヴィーにスクリーモのような静と動のパートを取り入れた『Get What You Give(ゲット・ワット・ユー・ギヴ)』。エモーショナルで叙情的なメロディーをブラッシュアップした『Dear Youth(ディア・ユース)』と、ベースとなるメタルコアの部分は変わらないが、つねにメロディー追求し研鑽してきた。

 

コンスタントに作品を発表し順風満帆な活動を続けてきた彼らだが、15年11月にバンドメンバーが乗っていたツアーバスがテキサス州にて衝突事故を起こす。運転手が亡くなり、ドラムのAndrew Tkaczyk(アンドリュー・トゥカチュク)が片足を切断する大怪我を負った。活動が危ぶまれるほどの大事故だったが、彼らは19年7月、不死鳥のようによみがえり、地元ロサンゼルスで復活ライヴを行い、活動を再開した。

 

そんな大事故から奇跡の復活を遂げた今作は、まちがいなく彼らの最高傑作だ。とくにメロディーに磨きがかかり、神秘的な美しさが増している。深く沈んでいく重いギターのリフとうめき声のようなデス声からは、嘆きや憤りを感じ、暗闇のなかで一縷の光が指すようなメロディーからは、憂いや戸惑い、恐怖といった感情を感じる。そこにはメタルコアにありがちな怒りや衝動や攻撃的でアグレッシブな闘争心よりも、緊迫した空気を紡ぐ重苦しいムードがアルバム全体を支配している。

 

今作では事故を起こし復活した心境がテーマになっている。歌詞は生死の狭間をさまよった経験がリアルに綴られ、“1333”では<灰の中から生き返った>と歌い、“Still Alive(まだ生きている)”では<戦いをあきらめない/人生の二度目のチャンス>と、歌っている。そしてアルバムのハイライトとなる“Aftermath(災害のあと)”では、<あの時の光景と騒音/上昇と下降/ここで終わりなのか?俺は再び自分を取り戻すことができるのか?/悲劇に打ち勝つのだ!>と、事故のあと人生すべてが変わったしまった現状を、赤裸々に語っている。不死鳥のごとく蘇えり、劇的な復活を遂げたが、現在もAndrew(アンドリュー)は、義足でドラムを叩き続けている。健常で良かったころの過去には二度と戻ることが出来ない。いまある不幸とハンデを受け入れ、生きていくしかない。現状と向き合い、固い決意で生きていく覚悟。そんな気迫に満ちたアルバムなのだ。

 

彼らはいまも絶望的で困難な状況が続いている。幸せで楽しいと感じることは、この先ないかもしれない。それでもあきらめず、必死にもがき生きている。限りある命を燃やし続けている。一度大きな失敗すると二度も元に戻れない日本社会で、健常な体を失っても立ち向かっていく彼らの姿勢は、とても参考になる。抜け出すことのできない地獄の苦しみ。そんな地獄と向き合い受け入れながら、生きていく方法をこの作品で示唆しているのだ。