FULL OF HELL(フル・オブ・ヘル)
『Weeping Choir(ウィーピング・クワイア)』

ペンシルベニア出身の19年に発表された4作目。FULL OF HELL(フル・オブ・ヘル)といえば、 Merzbow(メルツバウ)などのノイズ・ミュージックと、パワー・バイオレンスを合わせた暴虐なサウンドで、オリジナルティーあふれた、新生代のパワー・バイオレンス/メタル・バンドなのだ。

 

2作目となる『Rudiments of Mutilation(ルーディメンツ・オブ・ミュートゥレーション)』では、ブラストビートを中心としたファストで荒々しいパワー・バイオレンス・サウンドで、それほどオリジナルティーを感じさせなかったが、14年にMerzow(メルツバウ)と共同制作されたコラボレーション・アルバム『Full of Hell & Merzbow(フル・オブ・ヘル&メルツバウ)』をきっかけに、ノイズ・ミュージックを取り入れたサウンドに傾倒していく。

 

そして3作目の『Trumpeting Ecstasy(トランぺティング・エクスタシー)』では、穏やかで暗くダウナーなノイズと、パワーバイオレンスの脳天を突き抜けるような激しさの、二律背反する要素上手く融合させ、唯一無二のオリジナルティーを獲得した。

 

そして今作では、さらに進化したサウンドを展開している。前作ではダウナーなノイズとハイテンションなパワーバイオレンスが、スイッチを切り替えるようなメリハリのサウンドだったが、今作ではマシンガンの高速連射のドラムを中心に、いろいろな要素が混然一体化したカオティックなサウンドを展開している。やはり特筆すべきは、地響きのような低音の叫び声と、下水道ボーカルに、ヒステリックな高音ボーカルの、3種類の歌い方がシンガロングしたボーカルだ。まるで地獄の合唱団。そこには嘆きや、苦痛の泣き叫び、救いの悲鳴などが混じり合った、阿鼻叫喚するボーカルなのだ。

 

“満載した地獄”というバンド名が示す通り、あらゆる地獄をフルに詰め込んだサウンドだ。無間地獄で絶望のカタルシスと甘美な苦痛を感じさせるドローンアンビエント。等活地獄で掘削のように高速連射で叩きつけられるドラム。火炎地獄で業火に焼かれているブルータルなギター。土中地獄で地の底に埋められているような感覚のノイズ・ミュージックのイントロ。阿修羅地獄のような混乱と恐怖が入り混じったフリージャズなどの、あらゆる地獄を感じさせる要素が超スピードで、カオティックに混ざり合っている。まさに阿鼻叫喚としか表現できない地獄のサウンドなのだ。

 

もはやジャンル分けが不可能なほど、強烈な個性を解き放っている。自分の情報力の遅さにげんなりしてしまうが、間違いなく彼らは、メタル界の最前線の新しいサウンドなのだ。去年のベスト3に入る素晴らしい作品だ。