77年から40年以上の活動を続け、アメリカ/カナダのハードコア界ではレジェンドとして知られるカナダのハードコア・バンド、D.O.Aの21作目。
初期のころからアンチ・ファッション、アンチ・レイシズム(反人種差別)、アンチ・グローバリゼーションにプロテクト・フリーダム・スピーチなどのパンク・アティテュードを貫き、いまだ衰えない活動を続けている。13作目の『Win the Battle(ウィン・ザ・バトル)』では、資本家から労働権利を勝ち取ったカナダの炭鉱夫、Ginger Goodwin (ジンジャー・グッドウィン)をテーマにし、抵抗すると名付けられた20作目の『Fight Back(ファイト・バック)』では、過剰に取り締まる警官をモチーフに個人の自由の喪失をテーマにした。支配者階級層と徹底して戦う、筋金入りのパンク・スピリットを持ったバンドなのだ。
初期パンク/ハードコアを中心としたサウンドで、アルバムによっては、スカやレゲェー、ガレージ、Oiなどの要素を取り入れ、微妙な変化を見せていた。前作の『Fight Back(ファイト・バック)』では、シンプルでOi色の強い骨太なパンクロック。そして今作では、エネルギッシュで、スピーディーで、シンプルな初期パンクを展開。Dead Kennedys(デッド・ケネディーズ)のようなテクニカルでメロディックなリフに重点を置き、終始、勢いでぐいぐい押す展開。スピーディーで怒りと苛立ちと焦燥感に満ちた作品に仕上がっている。
『国家に対する反逆』というタイトルが付けられた今作では、トランプや金正恩、プーチンなどの独裁者たちを徹底的に批判している。“All The President’s Men(すべての大統領の部下)”では、国民の富を搾取する大統領の部下たちの行動を断罪し、“Wait Till Tomorrow(明日まで待つ)”では、国境に壁を作り、絶望と悲しみ憎しみと悪の連鎖を生むトランプ政権を批判。“Just Got Back From The USA(アメリカから帰ったばかり)”は、人種差別について歌い、“Fucked Up Donald(最悪のドナルド)”は、トランプ政権の最悪な政策をあげつらえ批判している。そしてタイトル曲の“It’s Treason (国家に対する反逆)”では、プーチンや金正恩を、ヒットラーのような独裁者になぞらえ批判している。
まさに反権威主義に満ちたパンク・スピリッツ全開の作品。独裁的にふるまう指導者たちを徹底的に反発し、怒りを込めて批判している。アメリカのバンドたちがこぞって批判を控えるなか、彼らは圧力を恐れず果敢に権威に立ち向かっている。< Treason(政治的反抗)>というタイトルには、ただ闇雲に体制側を批判するのではなく、言論の自由を守るという意味も込められているのだ。すべては世界平和のために。