Trophy Scars(トロフィー・スカーズ)
『Astral Pariah(アストラル・パーリア)』

ニュージャージ出身のエモーショナル・ハードコア・バンドの3作目。2011年に発表された『Never Born, Never Dead(ネバー・ボーン,ネバー・デッド)』ではTOUCHE AMORE(トゥーシェ・アモーレ)とバンドと同じく、エモーショナル・ハードコアの進化系だった。11年ぶりに発表された今作では、劇的に変化を遂げた作品となった。

 

At The Drive-In (アット・ザ・ドライブ・イン)のようなスタイルのエモーショナル・ハードコアに、多彩なアレンジを加え、さらに進化させた『Hospital Music for the Aesthetics of Language(言語の知覚のための病院の音楽)』。スクリーモのような激しさを取り入れた『Alphabet. Alphabets.(アルファベット・アルファベッツ)』。ジャズピアノの上品な穏やかさと切なさを取り入れ、悲しみにスポットを当て、より深い感情に根差した『Bad Luck(不運)』。中世ヨーロッパのゴジックっぽい要素を取り入れ、悲劇がテーマの『Darkness, Oh Hell(闇,地獄)』。クラシック音楽を取り入れた『Never Born, Never Dead(生まれてこなければよかった,不老不死)』。と、エモーショナル・ハードコアに、いろいろなジャンルの音楽を取り入れ、さらに進化してきた。

 

今作では、過去のエモーショナル・ハードコアとは異なり、The Mars Volta(マーズ・ヴォルタ)やCirca Survive(サーカ・サバイブ)などのバンドに代表されるプログレッシブ・ハードコアなサウンドを展開。音楽ジャンルこそプログレッシブ・ハードコアに属するが、両バンドとはまったく方向性が違う、奇妙で不気味なサウンドを奏でている。

 

ジャズ・ピアノから初期Pink Floyd(ピンク・フロイド)のサイケデリック・プログレに、ブルースやフォーク、バイオリンなどの古典的な音楽的要素を、ポスト・ハードコアのエッセンスを加え、優雅に上品に仕立てたサウンド。そこにはアンティークのようなノスタルジックな味わいを感じつつも、逃れられない宿命の呪いのような、不気味さがどこか漂っている。

 

そしてなにより強烈なインパクトを与えているのが、耳元でささやくような弱々しいボーカル。全体にあきらめや黄昏、衰退といった感情が漂っており、弱々しくもいびつで奇妙に聴こえてくる。

 

歌詞は、父や母、姉妹に兄弟など、家族について歌っている。両親や兄弟からの愛情不足、孤独や寂しさ、自己肯定感の低さ、トラウマ、心の傷、抑圧され続けた心など、愛情欠乏症的な内容が多い。けっして怒りや悲しみに暮れるのではなく、あきらめ自己憐憫して、衰退していくような、弱々しい感情が、やさしく穏やかに漂っている。何とも奇妙で不思議な気分にさせてくれる彼ら独特の世界観がそこにはあるのだ。

 

正直、音の形容するのが難しく、ひさびさに自分の音楽のキャパを超えるバンドに出会った。かなり独特でいびつなサウンド。初めてCursive(カーシヴ)の『THE UGLY ORGAN(ジ・アグリー・オルガン)』を聴いたときに感じたような、独特な不気味さと奇妙さがそこにあるのだ。