The Chisel(ザ・チズル)
『Retaliation (リタリエイション)』

ロンドン出身のアナーコ・バンドのデビュー作。イギリス80年代の懐かしさを感じるバンドで、CONFLICT(コンフリクト)やTHE BUISINESS(ビジネス)、The 4 Skins(4スキンズ)などの、Oiやアナーコパンクからの影響が強いバンドなのだ。

 

3コード2ビートのハードコアで、アルバム全体を息つく間もなく駆け抜けていく。メロディアスで疑問や怒りを扇情するギター。スピーディーで焦燥にあふれたドラム。怒りの団結を促すOiのコーラス。そしてすべてを総括する怒りと気合に満ちあふれた怒声ボーカル。

 

それにしても熱量がすごい。そこにあるのは怒り。ここで歌われている内容は、労働者階級層の怒りや、政治・権力に対する反抗。“Unlawful Execution(違法な取り締まり)”では、パブでおとり捜査をする警察に対して非難の言葉を述べ、“NOT THE ONLY ONE(ひとつだけじゃない)”では、労働者階級はまともな賃金を望んでいるだけ。俺たちは戦いを続けると歌い、“Nation’s Pride(国家の誇り)”では、戦争のせいで都市が燃え人々が死ぬ街で、上流階級があなたに何を決める—銃を持って人を殺せという示唆—のかを教えくれると歌っている。労働者が上流階級に賃金を搾取され、自由の権利を制限され、上流階級の無能な政治判断のため戦争に行かされる。上流階級への理不尽な怒りがそこにはあるのだ。

 

そして最後の“Will I Ever See You Again?(また会えるかな?)”は、ハーモニカ中心の悲哀に満ちたバラードで、死んでいった仲間たちについて歌っている。怒りで上流階級へ立ち向かっていったが、結局は打ち負かすことができなかった。心身ともにすり減り疲れ切った徒労。行いの正しい人間が理不尽なシステムの犠牲になり死んでいく悲哀。敗残者の悲憤とやるせなさを歌ったレクリエムなのだ。

 

いまやイギリスでもアメリカのハードコアが主流で、イギリス元来のハードコアのオリジナルティーやアイデンティティを感じるバンドがいない。そんななか、チェック柄のYシャツを着て、Oiのハンティング帽をかぶり、スキンヘッドで細身のジーンズという出で立ちで、ワーキング・クラスのアイデンティティを誇りに掲げ、イギリスの良かったころを復興したようなバンドが現れた。オリジナルティーこそ希薄かもしれないが、悲哀に満ちたリアリティのある歌詞は、胸に矢が刺さるほど、ぼくの心に訴えかけるものがある。