At The Heart Of The World(アット・ザ・ハート・オブ・ザ・ワールド)
『Inosculate (イノキュレーション)』

オレゴン州はポートランド出身のデジタル・ハードコア・バンドの4枚目のEP。Nine Inch Nails(ナイン・インチ・ネイルズ)に影響を受けたインダストリアル・ロックで、デス声や不快なエラー音、重厚なメタルギターなどを加え、彼らならではの独自のサウンドを追求している。

『Rotting Forms(ロッティング・フォームス)』では、工場の機械音と重厚なメタルギターを融合したサウンドを展開。『Sonic Oblivion Mixtape Vol. 1(ソニック・オブリビオン・ミックステープ Vol.1)』では、高音のエラー音、発砲音のようなドラムに、地獄のうめきのようなデス声や、マトリックスのようなデジタル音を合わせたサウンドを展開。『Sorrow Uncoils (Sonic Oblivion Mixtape Vol. 2) (スロウ・アンコイルズ(ソニック・オブリビオン・ミックステープ Vol.2))』では、神秘的で煌びやかな効果音と機械音な打ち込みを合わせたアゲアゲな要素が全くない、スローでひたすらダウナーなデジタル音を追求した。アルバムごとに異なる音色のデジタル音やインダストリアル音を融合し、彼らならではのオリジナルティーあるサウンドを展開していた。

そして今作でも引き続き、前作同様のダウナーなデジタル・ハードコアを展開している。だが『Reaching Perfection, Tasting Death(リーチング・パーフェクション,テイスティング・デス)』のテーマにあったような、人生を苦しみ、痛みは永遠に続くといった恐怖や絶望や苦しさは、この作品にはない。

今作では、ダークなメロディーとダンサンブルなビートがサウンドのコンセプトになっているようで、音のバラエティーが圧倒的に豊かになっている。漏電しているような電流音から、激しさから急に静かになる展開、ノイズにお経のようなボーカルに、スペイシーなエレクトロニックの音などを計算された曲の流れに組み込み、まさにエレクトロ・インダストリアルなサウンドを展開している。いままでの作品と比べると全体的にメロディックだが、人間的な生暖かい音は皆無で機械的で冷たい。感情的な情緒を徹底的に排除し、ひたすら無機質で機械的でプログラムエラーのような音を追求しているのだ

今作では、デジタル・ハードコアからエレクトロ・インダストリアルへと進化した作品だ。いままでAt The Heart Of The World(アット・ザ・ハート・オブ・ザ・ワールド)の特徴であったハードコアの激しさと重苦しさや、絶望や恐怖、苦しみといった感情はそこにはない。だがひたすら無機質に独特な音を追求しているこの作品も、かっこいい作品であることに間違いはない。