ZAMPLER #21(ザンプラー#21)
『He’s Not Worth It (ヒーズ・ノット・ワース・イット)』

カナダにあるZegema Beach Records(ゼゲマ・ビーチ・レコーズ)が手掛けるコンピレーション・アルバムZAMPLER(ザンプラー)シリーズの第21弾。ここに収録されているアーティストたちは、いまや流行り廃れ、絶滅しつつある音楽ジャンルのスクリーモにこだわったバンドたち。

スクリーモといえば、Grade(グレイド)やGlassjaw(グラスジョー)、THE USED(ザ・ユーズド)Thursday(サーズディ)などのバンドが有名で、100万枚の売り上げを記録するほど、一時は時代を席巻した。

だがこのコンピでは上記のようなメジャーなタイプのスクリーモ・バンドはいない。エモーショナル・ハードコアから、Converge(コンヴァージ)へ進化していく過程で枝分かれしたスクリーモ。Gravity Records(グラビティ・レコーズ)に代表されるHeroin(ヘロイン)やAngel Hair(エンジェル・ヘア)、Antioch Arrow(アンティオキア・アロー)、Mohinder(モヒンダーr)などのバンドたちから影響を受け、さらに進化したスクリーモ・バンドが収録されている。

どのバンドもメタルやメジャー・タイプのスクリーモからの影響はない。メジャータイプのスクリーモにあった、サウンドフォーマットや様式美としてのスクリームはここにはなく、どのバンドも不快な音を追求し、心の底からでた不安や悲鳴、嘆き、切望のようなスクリームを展開している。

豚の悲鳴のピッグ・スクイールとマスロックを合わせたOLTH(オルス)、罪の意識が積み重なり耐え難い重みとなった、脆弱で繊細なメロディーをとことん突き詰めスクリーモと合わせたTouché Amoré(トゥーシェ・アモーレ)の進化系ALAS(アラス)、スラッシュメタルの高速スピードとスクリーモを合わせ、トランスジェンダーや黒人の人権擁護を歌ったRIVERSLEEM(リバースクリーム)、ノイズやノーウェーヴをスクリーモと合わせノイジースクリーモと呼ばれるサウンドで反ファシズムを掲げたOBROA-SKAI(オブローアスカイ)、スクリーモとパワーバイオレンスが融合し、エモバイオレンスと呼ばれるサウンドを展開しているHETTA(ヘッタ)、Mars Volta(マーズ・ヴォルタ)のようなプログレとスクリーモを融合し、亡くなった友人に捧げる曲を歌ったJOLIETTE(ジョリエット)、大企業への批判や二極化について歌いメタルコアとスクリーモを合わせたメタルコア・スクリーモのVIBORA(ヴェンス)、トロピカルなメロディーとスクリーモを合わせ、死んだ友人の楽しかった思い出や、慈しみ、青春のほろ苦さ、若さゆえの甘酸っぱさ、嫉妬、共感、悲しみなどの感情をいっぱい詰め込んだPERFUMED SATURNINE ANGELS(パフュームド・サトゥルニン・エンジェルス)など、どのバンドもスクリーモと別なジャンルを融合し、ヘヴィーからメロディアスまで、そのバンドしかない個性を確立している。

個人的にすごいと思ったバンドは、OBROA-SKAI(オブローアスカイ)と、JOLIETTE(ジョリエット)と、PERFUMED SATURNINE ANGELS(パフュームド・サトゥルニン・エンジェルス)。OBROA-SKAI(オブローアスカイ)は焦燥にあふれた性急なスピードと不快で不安なノイズをベースに、この作品のなかで一番激しいサウンドで、新世代のヘヴィーロックを展開している。

JOLIETTE(ジョリエット)は、民族ドラムとサイケデリックに歪んだダブのようなギターで、激しさと繊細な美しさが入り混じったサウンドで、意識が遠のきそうな幻想的な世界観を演出。この作品のなかで一番実験的なサウンドを展開している。

PERFUMED SATURNINE ANGELS(パフュームド・サトゥルニン・エンジェルス)は南国のようなリゾート気分な安堵感や安らぎに満ちたメロディーから、嘆き、悲しみに彩られたヘヴィーなサウンドに変わっていく。色んな感情が圧縮され詰め込まれている。このバンドもかなり実験的なサウンドを展開している。まさに次世代のスクリーモ。

個人的にはスクリーモは終わったジャンルだと思っていたが、この作品を聴くと、アンダーグランドの世界で、人目につかず細々と日進月歩の進化を続けていたのが理解できる。その進化の集大成といえる作品が、このコンピレーションなのだ。Zegema Beach Records(ゼゲマ・ビーチ・レコーズ)のオーナであるDave Norman(デイヴ・ノーマン)の、スクリーモに対する愛情と情熱とこだわりが、深く感じる作品なのだ。

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