Germs(ジャームス)以降のロスアンゼルス・ハードコア・シーンのバンドたち
ここでは『The Decline(ザ・デクライン)』と同時期にロスアンゼルス・ハードコア・シーンで活躍して、映画で取り上げられなかったバンドたちを紹介したい。
Middle Class(ミドルクラス)
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出典:VICE
サンタアナ出身のMiddle Class(ミドルクラス)は、ハードコア・サウンドの原型となる、叫び声と勢いに満ちた速いパンク ロックの先駆者で、最初に現れたロスアンゼルス・ハードコア・シーンのバンド。Middle Class(ミドルクラス)というバンド名通り、メンバー全員が中産階級出身で、「流行遅れ」「あなたはここにいる」「状況」「反乱」など、時代遅れと思われても自分のやりたいことを貫く美学と、強い信念を持ったバンドだった。
TSOL
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ロングビーチ出身のTSOLは、パンクとゴズとサイケを融合し、Misfits(ミスフィッツ)と並び、ホラーパンクの先駆者と呼ばれているバンド。個人的には、ホラーパンク以前の、アメリカ政府と徴兵制度の復活を攻撃する怒りに満ちた左翼的な歌詞と、ハードコアの荒々しいサウンドが魅力のEP『TSOL』が一番好きだ。だがTSOLの最高傑作は、Misfits(ミスフィッツ)とは異なるダークで妖艶なメロディーという、異なるアプローチでホラーパンクの礎を作った『Dance with Me』だろう。
81年発表のデビューEPの『TSOL』は、ハードコア/パンクで、1st アルバムの『Dance with Me』は、パンクにゴズやデスロックを加えたホラーパンクだった。82年発表のEP『Weathered Statues』は、さらにサイケな要素が加わり、2nd アルバム『Beneath the Shadows』では、パンク・ハードコアの荒々しさを失い最後はハードコアとは呼べないサイケデリックなハードロックな変貌を遂げ、低迷していった。だがホラーパンクという新しい概念を作った部分では、アメリカン・ハードコア史で外すことのできないバンドなのだ。
Adolescents(アドレセンツ)
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出典:Discogs
オレンジカウンティ―出身のAdolescents(アドレセンツ)は、スピーディーで荒々しく勢いのある、西海岸の伝統的なファストなハードコア/パンク。歌詞は、ビバリーヒルズ青春白書の劣等生版といった内容で、デブな自分の容姿へのコンプレックス、優等生にも不良にもなれない中途半端な存在、モテない自分など、疎外感と暗黒な青春時代への呪詛を歌っていた。
Minutemen(ミニットメン)
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出典:ウキペディア
サンペドロ出身のMinutemen(ミニットメン)は、ハードコア/パンクにファンクやジャズを取り入れた実験的なポスト・パンク・バンド。あとにオルタナティブ・ロックへと変貌していくアメリカン・ハードコアのシーンで、パンク/ハードコアと、他のジャンルと折衷する独創的で実験的なMinutemen(ミニットメン)のサウンドは、後世に多大な影響を与えた。とくにデビューEPの『Paranoid Time』は、カリフォルニアのハードコア/パンクとイギリスのWire(ワイヤー)のサウンドを融合させた、プリミティブでミニマムなサウンドが魅力。
Descendents(ディッセンデンツ)
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出典:Exclusive
マンハッタンビーチ出身のDescendents(ディッセンデンツ)は、明るくカラッと爽やかなメロディック・パンクにどこか陰りのあるサウンドで、90年代のメロコアの基礎を作ったバンドだ。甘酸っぱい失恋から、汚れた大人になりたくなく成長したくないと歌った若者の心情、カッコつけたロックスターを否定した姿勢、モラトリアムな感情の若者の気持ちを代弁し歌詞は、聴くものにカリスマ的な人気を与えた。
眼鏡をかけたオタクっぽい性格と、自虐的で、けっしてカッコいいとはいえないルックス。派手でゴージャスなロックスターとは、対極にあるアティテュード。アメリカでアンチ・ロックスターというアティテュードを初めて確立したバンドだ。日本で例えるなら、「カッコ悪くったっていいよ、そんな事問題ない」「ドブネズミみたいに美しくなりたい」と歌ったTHE BULE HEARTS(ザ・ブルーハーツ)に近い立ち位置にいるバンドだ。
Blink 182 (ブリンク182)などのメロコアや、Weezer(ウィーザ―)などのエモ・バンドたちは、Descendents(ディッセンデンツ)のアティテュードを、新世代用にアップグレードさせ、メインストリームで絶大な人気を獲得したことが理解できる。
Agent Orange(エージェント・オレンジ)
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出典:Spotify
プラセンティア出身のAgent Orange(エージェント・オレンジ)は、RAMONES(ラモーンズ)系のパンクロックにThe Ventures(ザ・ベンチャーズ)のサーフミュージックを融合させた最初のバンド。サンセットの夕日と海とサーフィンをイメージさせるメロディーと、荒々しいパンクのギターとの融合が印象的。サーフパンクとも呼ばれた独特なサウンドだ。
Social Distortion(ソーシャル・ディストーション)
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オレンジカウンティ出身のSocial Distortion(ソーシャル・ディストーション)は、カントリー&ブ―ルスのJohnny” Cash(ジョニー・キャッシュ)とRAMONES(ラモーンズ)を融合したパンクロックで、Bad Religion(バッド・レリジョン)と同じく、90年代のメロコア・ブームでも人気を獲得したバンドだ。とくにヴォーカルの、Mike Ness(マイクネス)の、善と悪の狭間で揺れ動く壮絶な人生を歌った歌詞が魅力で、リアリティーある重みと深みが心に突き刺さってくる。彼ら以上に共感や後悔、懺悔、悔悛といった感情表現を超えるバンドはいないだろう。
Bad Religion(バッド・レリジョン)
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ロスアンゼルス出身のBad Religion(バッド・レリジョン)は、速い、激しい、メロディックの3拍子揃ったメロディック・ハードコアの、サウンドを作った創始者。Social Distortion(ソーシャル・ディストーション)同様、90年代のメロコア・ブームで多大な人気を獲得した。
動物学の博士号を取得したヴォーカルのGreg Graffin(グレッグ・グラフィン)の歌詞は、Lexicon Punk(辞書のパンク)と呼ばれるほど、知性に富んだ内容で、ダーウィンの「種の起源」を論拠に、アダムとイブのキリスト教を批判、地球温暖化から、アメリカの大企業のグロバリゼーションへの警鐘、民族間の対立で寛容性を失ったアメリカ政治など、多岐にわたって様々な内容を歌っていた。
Angry Samoans(アングリー・サモアンズ)
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出典:Spotify
ロスアンゼルス出身のAngry Samoans(アングリー・サモアンズ)は、1960年代のガレージ・ロックとハードコア/パンクをミックスさせた、独特なギターサウンドのバンド。デビューEP『Inside My Brain』に収録された「Get Off the Air」では、Ramones(ラモーンズ)、Sex Pistols(セックス・ピストルズ)、Van Halen(ヴァンヘイレン)、Guns N’ Roses(ガンズ&ローゼス)などのバンドをラジオで紹介したKROQ-FMのDJであるRodney Bingenheimer(ロドニー・ビンゲンハイマー)の悪口を言った曲を作った。その理由は、Angry Samoans(アングリー・サモアンズ)が、ハリウッド/ロスアンゼルス地域でのクラブでブラックリストに載せられたため、クラブシーンに強い権力を持っていたRodney Bingenheimer(ロドニー・ビンゲンハイマー)を批判する曲を作ったそうだ。ガレージ・ハードコアの激しくやさぐれたサウンドで、権威に立ち向かっていくパンクなのだ。
The Vandals(ザ・ヴァンダルズ)
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出典:DYING SCENE
オレンジカウンティ出身のThe Vandals(ザ・ヴァンダルズ)は、ファストでノイジーなハードコア/パンクに、ホイッスルやスクラッチなどの効果音、アハーンというコーラスなどを加えたサウンドと、ユーモラスとジョークに満ちた歌詞、人を小バカにしたようなシニカルな笑いや、おふざけ、ブレンドしたアティテュードが特徴。歌詞のほとんどは、自身の経験とロサンゼルス・ハードコア・シーンで起こった出来事について歌っている。おふざけとユーモラスなサウンドは、OFFSPRING(オフスプリング)などのバンドに多大な影響を与えた。
Wasted Youth(ウェイステッドユース)
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ロスアンゼルス出身のWasted Youth(ウェイステッドユース)は、Black Flag(ブラック・フラッグ)やCircle Jerks(サークル・ジャークス)に影響を受け活動を始めたバンド。とくにPUSHEAD(パスヘッド)がアルバム・ジャケットを制作したデビューアルバムの『Reagan’s In(レーガンズ・イン)』は、「お前は最低だ」など、レーガン政権を批判した内容を歌っている。ノイジーでスピーディーでファストなハードコアで、その音楽スタイルは西海岸ハードコア・シーンで、最初に演奏したバンドだと評価されている。後期に進むにつれ、ハードコア/パンクからクロスオーバースラッシュへと音楽スタイルが変化した。
D.I.
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出典:Amino
フラートン出身で、Adolescents(アドレセンツ)やSocial Distortion(ソーシャル・ディストーション)などのバンドでドラムを担当していたヴォーカル兼ソングライターのCasey Royer(ケイシー・ロイヤー)によって結成されたD.I.。Ramones(ラモーンズ)直系のパンクロックに、サーフパンクとニューウェーブを融合したサウンドが特徴。2011年3月には、Casey Royer(ケイシー・ロイヤー)が12歳の息子がいる前で、ヘロインを摂取し逮捕されるなど、西海岸ハードコアらしいドラッグを肯定した退廃的なアティテュードのバンドでもあった。
China White(チャイナ・ホワイト)
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ハンティントンビーチ出身のChina White(チャイナ・ホワイト)は、スピーディーで荒々しい勢いのハードコア/パンク・バンド。バンド名のChina White(チャイナ・ホワイト)は、チャイナ・ホワイトという麻薬と、Johnny Thunders and the Heartbreakers(ジョニー・サンダース・アンド・ザ・ハートブレイカーズ)の曲「チャイニーズ・ロックス」を合わせて名づけられた。
殺人現場の写真をアルバムジャケットにしたデビューEPの『Danger Zone』では、麻薬中毒や殺人などのかるふぁるあ社会の闇を歌っていた。