Kominas (コミナス)
『Wild Nights in Guantanamo Bay(ワイルド・ナイツ・イン・グアンタナモ・バイ)』

Wild Nights in Guantanamo BayWild Nights in Guantanamo Bay
Kominas

2008-08-19
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これはすごい。ひさびさにパンクと思えるアーティストに出会った。ストレートエッヂ、ヴィーガン以降、思想的にパンクは頭打ちかと思っていた。だがまた新しい思想が出てきた。その名もタクヮ・コア(Taqwacore)。敬虔なイスラム教徒によるパンクなのだ。

タクヮとは信仰深さを意味するアラビア語で、コアはハードコアのコア。彼らは敬虔なイスラム教徒だが、けっして原理主義者ではない。ここで歌われている内容は、イスラム原理主義や同性愛への批判と、ムスリムを差別するアメリカ社会への抗議。アメリカもイスラムをも批判するといった、けっして右寄りに考え方に偏らない中庸的な思想を持ったバンドなのだ。

 

その立派な思想もさることながら、彼らの音楽性も面白い。08年に発表されたデビュー作では、ジャームスやランシドなどのアメリカン・ハードコアをベースに、スカやアラブやインドなどのオリエンタルティックなメロディーを合わせたサウンド。いままでオリエンティックなメロディーを取り入れたバンドは数多くいたが、彼らとはあきらかに違う。その違いはメロディーを強調していない点にある。たいていのバンドが聴きやすいオリエンティックなメロディーを、神秘的な装いを持って取り入れているが、彼らの場合、神秘的なメロディーの陰にあたる部分を際立たせ、不穏な空気感を演出している。意図的に他所からメロディーを持ってくるのではなく、元来彼らのなかに染み付いているものが反映されている感じだ。オリエンティックなメロディーを知り尽くしているから、隠された部分も違和感なく表現できる。

 

そのサウンドから感じる雰囲気は、昼間は40℃を越え、夜は零下を越える砂漠の夜のような気だるさと過酷さ。アラブ特有の単旋律的で中立音階のみで作られるメロディーからは、うだる真夏の太陽のような気だるさと、暗殺を指示するシグナルのような不気味さを感じる。

 

とくに印象的なのが、12曲目の”スイサイド・ボム・ザ・ギャップ”。そこでは無垢な青年に自爆テロを強要するタリバンを痛烈に批判している。イスラム教徒であることに誇りやアンデンティティーを持ちながらも、痛烈にタリバンを批判している。イスラム教徒でありながらタリバンを批判する彼らは、まぎれもなく反社会的で、パンクだ。

 

総合的にアメリカ、イギリスが代表するロックシーンが停滞期に突入し、新たな価値観や音楽を創出できないでいる。そんななか、彼らは異文化から新しい思想をもたらした。これは10年以降のパンク・ハードコアシーンを代表する名盤だ。