The ’59 Sound ザ・ガスライト・アンセム インディペンデントレーベル 2009-03-04 |
08年に発表された2作目。個人的にこのアルバムが一番好き。サウンドフォーマットこそ、前作と比べさほど大きな変化はないが、確実に深化を遂げ、情緒の詰まった作品に仕上がっている。今作では、初期ジミー・イート・ワールドのような繊細なメロディーが特徴のエモと、ソーシャル・ディストーション系のルーズで荒々しいパンクを中心に、繊細で疾走感あるサウンドを奏でている。
とくに2曲目の疾走感。ブルース・スプリングティーンの『明日なき暴走』のようなやるせない気分を抱えながら、走り抜ける労働者の悲しさがある。そこには強がった男の弱い一面や、戦い続けて疲弊した労働者の姿があり、先のみえた将来への絶望や、自己の行動に対する無力さや切なさが漂っている。まさに古きよきアメリカの郷愁を表現したサウンド。チャールズ・ディスケンスの小説を引用した歌詞には、<62年の歌を口ずさむ>、<59年代の歌が流れてくる>、<55年式のリンカーン>などのキーワードが出てくる。
そこにはまるで大自然にあふれた地方都市が開発され自然が失われてしまったときのような喪失感と、楽しかった思い出を振り返るときに感じる一抹の寂しさが漂っている。楽しかった日々や、失われてしまった光景はもう二度と戻らないのだ。そんなときに感じる寂寥とした思いだ。そんなアメリカの憧憬をガスライト・アンセムは描こうとしている。この男臭く切ない繊細でイノセントなサウンドを聴いて感動しないやつは、ロックを聴かないほうがいいだろう。