Fiddlehead(フィドルヘッド)
『Death is Nothing to Us(デス・イズ・ナッシング・トゥ・アス)』

HAVE HEART(ハブ・ハート)のPat Flynn(パット・フリン)とBASEMENT(ベースメント)のギターAlex Henery(アレックス・ヘンリー)らにより結成されたボストン出身のエモ・バンドの3作目。

前作『Between The Richness(ビトゥイーン・ザ・リッチネス)』は、マサチューセッツ州ケンブリッジの詩人、EE カミングスの有名なポエム<私はあなたの心とともにいる(私の心の中に)/私は決して離れない/愛しい人よ、私の行くところはいつもあなたがいる>を、歌詞に取り入れ、一躍有名になった作品であった。

そもそもFiddlehead(フィドルヘッド)は、2010年にボーカルのPat Flynn(パット・フリン)の父親が亡くなった悲しみから立ち直るため、結成された。だからFiddlehead(フィドルヘッド)のサウンドには、父親の死に対する悲しみ、死んでも心の中で生き続けるや、死と愛が、一貫したバンド・コンセプトとしてあった。

今作でもバンドコンセプトに変わりはない。『Death Is Nothing To Us(死は私たちにとって何でもない)』と名付けられた今作では、『Springtime and Blind(スプリングタイム・アンド・ブラインド)』と『Between The Richness(ビトゥイーン・ザ・リッチネス)』の3部作の集大成ともいえる作品で、コンセプトである生と死と愛をさらに深く掘り下げ、グローバルで哲学的なアプローチを展開している。

“Sleepyhead(スリーピィーヘッド)”では、<世界の痛みは、暗く、憂鬱で、悲しく、厳しい人生の終わりのない苦しみ>と、生きていくことの苦しみについて歌い、“Loserman(敗北した男)”では、<愛を失った者、人生を失った者、希望を失った者、心を失った者、どんなに辛くても生き抜いて死んでほしい。あなたは一人じゃない>と、敗残者になり愛や希望を失っても生きてほしいと歌っている。

“The Woes苦悩”では、<死に執着しているフィドルヘッズに、私もあなたと一緒に破滅から抜けだす>と、自殺願望を捨て人生を生き抜くことを歌い、“Going To Die(死ぬつもり)”では、<父親の死で感じた悲しみと破滅と暗闇を乗り越える。父がいなくて寂しいですが、心の中であなたの声が聞こえるようになった。私はまだ死にたくないが、死んだらあの世でお会いしましょう>と歌っている。

ここにあるのは、悲しみと憂鬱を追い払うための戦いと、どんなに辛くても生き抜く決意。死という悲しみや痛み、苦しみを受け入れ生きていく。とことん悩み苦しんでこそ人生に意味があるといった哲学が、今作にはあるのだ。

サウンド面ではTexas Is the Reason(テキサス・イズ・リーズン)をさらにセンチにメロディックに仕立て、青春の咆哮のようなエモから、力強くパワフルに今作では深化している。野太いギターと力強いメロディーを中心に、心の奥底の心情を吐露していく展開。苦悩や葛藤が滲み出た叫び声には、絶望に彩られながらも、悩みという闇を切り裂いて、たとえ希望がなくても立ち向かっていく決意が、奥底に静かに湧き出る泉のように、じわじわとにじみ出ている。スピード感や歯切れがよくないサウンドだが、かっこ悪く不器用で武骨でも前へ前へ進んでいこうとする泥臭さがそこにはある。

青春の甘酸っぱさが残る青臭いエモを、哲学的に愛と悲しみを突き詰めた作品。知的で哲学的で大人のエモという、新しい味わいのある作品なのだ。