Death Lens(デス・レンズ)
『Vacant(ヴァカント)』

ロスアンゼルス出身のポスト・パンク・バンドの11作品目となるシングル。

初期のころはThe Ventures(ザ・ベンチャーズ)のようなイントロから、999系のパワーポップにガレージ・ロックを取り入れた、オールディーズの匂いがするパンク・ロックだった。『Fuck This』では、ノイジーなギターやWire (ワイヤー)のようなポストパンクなサウンドを取り入れた。『Beer Up Only Club』では、THE JAM(ザ・ジャム)のようなパンク・ロックに、アラビアンなメロディーなどを取り入れ、ブラッシュアップしたサウンドを展開。

そして出世作となった『No Luck(ノー・ラック)』では、差別や階級がある社会で民主主義と呼んでいることへの皮肉と反発や、直接人と接することのないZoom会議が中心の節活への閉塞感と孤独とストレス、人生の不安や困難などについて歌い、苦しい状況を抜け出した先には、希望があると、苦難を乗り越え成長する大切さを歌っている。苦難を乗り越える人生讃歌と、社会や政治、メンタルヘルスや個人的な人間関係と、内外問わず幅広い内容を歌ったパンク・バンドなのだ。

漏電した電流のようなギターから警告音が反復するフレーズの実験的なポストパンクな曲から、シンプルなメロディック・パンク、アコースティックのイントロまでの幅広い楽曲で、前作よりもシリアスで攻撃的なサウンドに変化した『No Luck(ノー・ラック)』と比べると、このシングルでは初期、THE JAM(ザ・ジャム)にエモを足したような野太いパンク・ロックを展開している。歌詞は<不安を感じている。それは私のなかで最悪な事態をもたらす。私は孤独で考えすぎてしまう。17歳の自分が子供であるかのように生きることにうんざり>など、悲観的で不安や苛立ちや孤独を感じる思春期のとまどった心境を歌っている。エモのような青春パンクな曲だ。

社会問題や内面世界の困難や葛藤を歌った前作と比べると、青春的な内容でポップになった印象がある。だが彼らなりの新しい新境地を開いた曲でもある。Epitaph Records(エピタフ・レコード)に移籍し、ポップな方向に進むのか、それともヘヴィーな方向に進むのか分からないが、いずれにしても次のアルバムは、おそらく相当気合の入った作品になるであろう。そういった意味では期待が持てる内容のシングルだ。