Perp Walk(パープ・ウォーク)
『The Chain of Infection(ザ・チェイン・オブ・インフェクション)』

イギリスはブリストル出身のパワーバイオレンス・バンドのシングルに次ぐ2作目のEP。Siege(シージ)からの影響を強く感じるパワーバイオレンスで、スローで重たくノイジーなギターに、怒りを刻み込むようにシャウトした怒声が特徴的。

ここで歌われているのはコロナ・パンデミックで感じた怒り。フロントマンであるPaul Collier(ポール・コリア―)は、コロナ・パンデミックのとき医療現場で働いていたそうだ。“Moral Compass(モラルコンパス)”では、<破壊的な考え方に目がくらみ、私が従えない物語を押し付ける>と、感染の恐怖によって差別などの倫理基準がなくなったことを歌い、“The Chain of Infection(感染の連鎖)”では、<偽りの指導者、偽りの偶像、偽りの安心感。終わりのないスパイラルに陥っている。死ぬのをじっと待っている>と、コロナ重症患者がただ死を待つ現状を生々しく伝えている。

この作品を通じて伝えたかったこととは、コロナパンデミックを通じて、心の痛みを理解できない人が多い現実。「死体を高く積み上げろ」と、その人の命の尊厳を平然と無視した言葉を吐き捨てた人がいたという事実。決して許すことも忘れることもできないほど、怒りを覚えたという。人種差別主義者に対する憎しみや、共感や同情といった感情が欠如した人々に対する軽蔑についても歌っているそうだ。

日本でも老人は早く死ぬべきだと訴えている自己中心的な考えの経済学者が活躍している昨今、社会全体に心の痛みを分からない人が増えている。誰かが熱く沸騰しているヤカンは、触ったら本当に火傷するのか、経験しないと分からないと言っていたが、その言葉通り、本当の恐怖を目の前で味わなければ、死への恐怖と生への切望が理解できないのだろう。そういった意味では、このアルバムには、死と向き合った人にしか感じることができない感情が、怒りや疑い恐怖といった感情が伴って、生々しく伝わってくる。葉隠入門を信条に掲げている、日頃偉そうなことを言っている人(三島由紀夫以外)ほど、生へ執着するチープな人間であることを感じさせる作品なのだ。