BEATDOWN HARDCORE ビートダウン・ハードコアについて(ヨーロッパ編)

𝄃イギリスのビートダウンハードコア

イギリスでは、Six Ft Ditch (シックス フィート ディッチ)からDESOLATED(デサレイティド)、KNUCKLEDUST (ナックルダスト)、COLD HARD TRUTH(コールド・ハード・トゥルース)、MALEVOLENCE(マレボランス)、NO WITNESSES(ノー・ウィネス)、DIRTY MONEY(ダーティー・マネー) 、NINEBAR(ナインバー)など、数多くのビートダウン・ハードコア・バンドを輩出している。全体的にイギリス・ハードコアの伝統を受け継ぐバンドは少なく、アメリカ・ナイズされたバンドが多い。アメリカ・ビートダウン・ハードコア的なタフガイ・アティテュードを全面に掲げ、そこにイギリスのブラックユーモアや、ホラー、アール・ヌーヴォーな芸術性を取り入れ、独自の進化を遂げている。またベルギーやドイツのスタイルに近いバンドも多く、多様性にあふれた雑多的な魅力がイギリスのビートダウン・ハードコア・バンドの特徴といえるだろう。
 

KNUCKLEDUST (ナックルダスト)


出典:Stabruch
KNUCKLEDUST (ナックルダスト)は、1996年から活動しているバンドで、イギリスで一番有名なビートダウン・ハードコア・バンド。ベルギーやドイツのビートダウン・ハードコアの影響を受けていないのも彼らの特徴のひとつ。ハードコアらしいサウンドを展開している。GBHのようなシンプルなハードコアをベースに、シンプルにスピーディーにアグレッシヴに突き抜けていく。2000年発表の『Time Won’t Heal This(タイム・ウォント・ヘル・ディス)』では、戦争で破壊されたビックベンのジャケットが印象的で、ヒップホップな歌い回しやOiコーラスが人生に立ち向かっていくような闘争心をあたえてくれる。その破壊的なサウンドには後味スッキリな爽快感がある。タフガイ・アティテュードではなく、格闘技と結びついたバンド。
 

Six Ft Ditch (シックス フィート ディッチ)


出典:GigView
Six Ft Ditch (シックス フィート ディッチ) は、イギリス・ポーツマス出身のビートダウン ハードコア。2000年から活動を始めたバンドで、Bulldoze(ブルードーズ)やShattered Realm(シャッタード レルム)などのビートダウン・ハードコアやメタルコアに影響を受けている。2010年に発表された『Recreational Violence(レクリエーション・バイオレンス)』では、ホラーやスプラッターな要素を取り入れ、独特なサウンドを展開している。バスケのユニフォームを着てタフガイ・ファッションに影響を受けながらも、メンタル的にはタフガイからの影響が感じられない。イギリス人らしい線の細さやファッション感覚と同化した、彼ららしいオリジナルティーを発揮している。
 

DESOLATED(デサレイティド)


出典:facebook
DESOLATED(デサレイティド)は、かなりデスメタル度の強いスタイルのバンド。デスメタルに、ヒップホップの歌い回し、叙情的なメロディパートを取り入れ、独特なサウンドを展開している。とくに2012年発表の『Verse of Judas(バース・オブ・ジューダス)』では、ミュシャのようなアール・ヌーヴォーな芸術性に、ブルータルな要素を合わせた、独特の世界観を演出している。ごりごりとうねるデスメタルなサウンドに、落ち着き孤独な精神世界のような静謐感を合わせたサウンド。イギリスのハードコアからの影響は感じれないが、ヨーロッパの耽美主義とメタルが結びついたバンドなのだ。
 

COLD HARD TRUTH(コールド・ハード・トゥルース)


出典:INSANE BLOG
COLD HARD TRUTH(コールド・ハード・トゥルース)は、2009年ごろから現在にかけて活動しているバンドで、メタリック・ハードコアをベースにした、いかついサウンドを展開している。2020年に発表された『Intimidation(インティミデーション)』では、ラップボーカルとデスメタル・ギターを中心に、ザクザク刻むメタルのリフとブラストビートが、極限までテンポを落としたビートダウンなサウンドと融合し、まるで映画コマンドーのようなマッチョなバイオレンスさを醸し出している。まるで肉体美を競い合うボディビルの大会のように、サウンドのバイオレンスさという様式美を追求しているのが、このバンドの特徴といえるだろう。
 

MALEVOLENCE(マレボランス)


出典:INSANE BLOG
MALEVOLENCE(マレボランス)は、ビートダウン・ハードコアとスレッジ・メタルとメタルコアの中間に位置するバンド。メロディック・デスメタル・バンドのAt the Gates(アット・ザ・ゲイツ)に影響を受けバンドを始め、そこにサザンロックの要素取り入れ、メタルコアやスレッジメタルの要素を加え、独自のサウンドを演出している。ゴリゴリのビートダウン・ハードコアではないが、要素を取り入れたということで、ここに取り上げた。
 

NINEBAR(ナインバー)


出典:facebook
NINEBAR(ナインバー)も、一風変わったサウンドとアティテュードを持ったバンドだ。MADBALL(マッドボール)やBulldoze (ブルドーズ)直系のビートダウン・ハードコア、シンプルなサウンドを展開。ヒップホップな歌い回しのツインボーカルで、交互に歌いシンガロングしていくスタイル。重いグルーヴを重視したビートダウン・ギターに時々からむ叙情的なメロディー、メタル色が一切ないビートダウン・ハードコアなのも、彼らの特徴といえるだろう。歌詞はロンドンの地元愛から、友情、疎外と喪失、プライドに献身さ、破壊にデマに対する怒りなどについて。そこにはパブで酒を飲みながら、笑い、ストレスを発散する、ワーキングクラスの日常と人情があるのだ。中世の騎士のようなマントに素っ裸というブラックジョークとも取れる出で立ちで、不良のタフガイ・アティテュードではなく、イギリス的なワーキングクラス・ヒーローを全面に掲げている姿勢が、好感の持てるバンドなのだ。