BEATDOWN HARDCORE ビートダウン・ハードコアについて(ヨーロッパ編)

ビートダウンハードコアについて

世界への拡散(2000年中盤から2020年代)【ヨーロッパ編】

2000年代も中ごろに入ると、ビートダウン・ハードコアは全世界に影響力を拡散していく。イギリスやベルギー、ドイツ、フランスなどのヨーロッパの国から、タイ、韓国、日本などのアジアにいたるまで、ビートダウン・ハードコアがハードコア・シーンを席巻していく。イギリスやベルギー、ドイツ、日本などの国では、自国のハードコア・シーンと結びつき、ビートダウン・ハードコアが独自の進化を遂げていく。2010年ごろになるとビートダウン・ハードコアが世界中で最盛期を迎えた。ヨーロッパでは、メタリック・ハードコアやブルータル・デスメタルと融合し、さらにヘヴィーで重いサウンドへと進化を遂げていく。バンドによっては、タフガイ精神が格闘技に結び付き、アティテュードが変貌していくケースもみられる。ビートダウン・ハードコアの要素を取り入れたメタル・バンドも多く、ヨーロッパでは独自の進化が見られる。イギリス・ロンドンのRucktion records(ラクション・レコーズ)と、ドイツ・アルンスベルクのFilled with hate records(フィルド・ウィズ・ヘイト・レコーズ)が、ビートダウン・ハードコア系レーベルとして、その名をとどろかせた。ベルギーでは、老舗ハードコアレーベルGOOD LIFE(グッド・ライフ)が、世界中のビートダウン・ハードコア・バンドを集めたコンピレーション『V.A / beatdown basterds(V.A/ビートダウン・バスターズ)』をリリースし、ビートダウン・ハードコアの盛り上がりに貢献した。ヨーロッパのビートダウン・ハードコア・シーンが、本場アメリカ以上の知名度を得て、独特なサウンドを生み出したことは間違いない。まずはヨーロッパのビートダウン・ハードコアから紹介したい。
 

𝄃ベルギーのビートダウンハードコア

ベルギーはもともとハードコアの盛んな地域で、古くからH8000と呼ばれるハードコア・シーンが存在していた。H8000はメタルとハードコアの折衷スタイルのバンドが多く、年代を重ねるごとに、ブルータルやデスメタルを取り入れ、独特な進化を遂げていった。ベルギーを語るうえで外せないのが、老舗ハードコアレーベルGOOD LIFE Records(グッド・ライフ・レコーズ)の存在。アメリカのメタルコアに特化したレーベルTrustkill Records(トラストキル・レコーズ)と提携を結び、ベルギーに優良なバンドを、アメリカに紹介していた。GOOD LIFE Records(グッド・ライフ・レコーズ)がリリースした、世界中のビートダウン・ハードコア・バンドを集めたコンピレーション『V.A / beatdown basterds(V.A/ビートダウン・バスターズ)』は、ヨーロッパ・ビートダウン・ハードコアの金字塔といえる作品で、この作品の影響によって、ヨーロッパ中にビートダウン・ハードコアが広まったといっても過言ではない。
 

NASTY(ナスティー)


出典:IDIOTEQ
ベルギーのビートダウン・ハードコア・シーンを象徴するバンドNASTY(ナスティー)だろう。ヨーロッパを代表するバンドといっても過言ではないほど知名度が高く、2004年に結成され現在も活動中。EARTH CRISIS(アース・クライシス)以降のメタリック・ハードコアやデスメタル、メタルコアからの影響が強いサウンドで、Bulldoze(ブルドーズ)からの影響があまり感じられないもの、NASTY(ナスティー)の特徴のひとつ。タフガイ・アティテュードが格闘技のストイックさと結びついたバンドでもある。ビートダウン・ハードコアのアティテュードがヨーロッパで独特な進化を遂げ、その象徴的な存在が彼らなのだ。2008年発表の出世作『Aggression(アグレッション)』は、Earth Crisis(アース・クライシス)以降のメタリック・ハードコアをブラッシュアップし、より重く、より金属に、より低音に、ブラッシュアップしたサウンドを展開。怒りを自らの内面に咀嚼し、怒りを敵と思う自制心や自分自身の弱さや突き詰めた自省的な歌詞が印象的。ファシストや男女差別主義者には怒りを込めて批判しながらも、“愛”というメッセージを掲げ、人類にとって愛や寛容や包容力が必要だと説いている。平和的な解決方法を模索するポジティヴなバンドでもあるのだ。
 

SURGE OF FURY(サージ・オブ・フューリー)


出典:Rucktion Records
SURGE OF FURY(サージ・オブ・フューリー)は、97年から活動を始め、スタイルや信念を変えることなく一貫してビートダウン・ハードコアを続けてきたバンド。ヨーロッパでは珍しい、アメリカン・スタイルのビートダウン・ハードコア。作品を重ねるごとに、Terror (テラー)のように、メタリックで重厚なギターや、スピーディーなハードコアなどをハードコアのいい部分を取り入れ深化してきたバンド。歌詞は、不安な気持ちやフラストレーション、怒り、孤独との闘いなど、弱い自分との闘いについて歌っている。そこでは芯の強い自分を確立して、人生に立ち向かっていく大切さを説いている。ビートダウン・ハードコアの信念がタフガイ・アティテュードから内省的でストイックなアティテュードに変化した、ヨーロッパ・ビートダウン・ハードコアの先駆者のひとつなのだ。
 

BALVOA[4700](バルボア)


出典:YOUTUBE
NASTY(ナスティー)の分家とでも呼ぶべきバンドがBALVOA[4700](バルボア)だ。15年にNASTY(ナスティー)を脱退したベースのGu.Ludo(ルード)が、現在BALVOA[4700](バルボア)の活動に専念している。バンド名のBALVOA[4700](バルボア)は、アメリカに存在するカオティック・ハードコア・バンド、BALVOA(バルボア)と区別するため[4700]と表記をつけ活動をしている。そのサウンドは、NASTY(ナスティー)よりもさらにデス・メタリック度が増したビートダウン・ハードコア。終始ミディアムテンポで重さを追求し、プレス機で潰されるような重厚感のあるダウンチューニングギター、地獄のうめき声のようなボーカル、ズシズシと低音が響くドラム。どれをとっても過激に激しくラウドに進化している。NASTY(ナスティー)のようなストイシズムこそ感じられないが、ブルータルな要素を加えたのがBALVOA[4700](バルボア)の個性といえるだろう。
 

CRAWLSPACE(クロールスペース)


出典:Discogs
CRAWLSPACE(クロールスペース)は、H8000シーンから登場したバンドで、96年ごろから活動を続けている。2001年発表の『ENTER THE REALM OF CHAOS(エンター・ザ・レルム・オブ・ケイオス)』で、デス・メタル濃度を高めより強度にパワーアップ。シンフォニックやサタニズムなどを取り入れ、より邪悪に狂暴なサウンドを展開。後世のビートダウン・ハードコアにあたえた影響は計り知れないバンドなのだ。