Taqwacoreタクヮコア・シーンについて

09年に発売されたタクヮコア・シーンを紹介したドキュメントDVD。架空の物語であった小説『タクヮコアズ』に影響を受けたイスラム教徒の若者たちから、実際にタクヮコアが誕生し、シーンが形成された。小説『タクヮコアズ』の著者であるマイケル・ムハンマドが、誕生したタクワ・コア・シーンを取材し、アメリカとパキスタンで活動するザ・コミナスと一緒にアメリカツアーを周るというドキュメンタリー映画。最後はザ・コミナスのルーツであるパキスタンに渡り、イスラム社会にパンクを普及するという内容で締めくくられる。タクワ・コアのバンドを通して、非イスラム側にはイスラム社会を紹介し、イスラム側にはパンク・ロックの魅力を伝えている。

出典:Taqwacore: The Birth of Punk Islam

ここではザ・コミナスを合わせて3バンドの出演している。とくに印象深いバンドは、女性ボーカルようするセレクト・トライアル・ファイブ(本人たちによれば自分たちはタクワ・コアではないとのこと。シーンとの連動を拒否している)。政治的な不満を激しく叫ぶボーカルスタイルが特徴のバンドだ。イスラム社会では女性はヒジャブと呼ばれるスカーフのような布で頭を隠すのが一般的だ。それが短髪のソフトモヒカンという出で立ちで、イスラム女性社会を真っ向から否定するような、イスラムの伝統主義と女性差別を痛烈に批判している。イスラム教徒であることにアイデンティティと誇りを持ちながらも、イスラムの悪いところは変えようとする姿勢がそこにはある。その姿がなんともパンクらしくとても好感が持てるバンドなのだ。

そしてこの作品のハイライトはザ・コミナスのシカゴとパキスタンでのライヴ。そこではイスラム社会ならではの問題が見えてくる。シカゴのライヴでは会場がイスラム集会で、演奏の途中に警察に弾圧されライヴが中止になるというハプニングに見舞われる。パキスタンでは、演奏の最中に近所でアメリカ軍の空爆があり、ライヴが中止になる場面もある。9,11以降、イスラム社会の人たちは虐げられ、検閲をうける過酷な生活を余儀なくされているのだ。

出典:wikipedia

警察の取締りを受けるシーンや、パキスタン人に対して<ジョージ・ブッシュ、マザーファッカー>と怒りに満ちた声で叫ぶ姿を見ると、80年代の暴力と破壊行動に満ちたアメリカのハードコア・シーンを思い出す。片やアメリカの中間層の白人、もう一方はイスラム教徒というマイノリティー。両者は肌の色も、信じる宗教も、貧富の差も、守られている法律さえ違う。だが激しく扇動し、反社会的な考え方で、衝動に満ちたライヴを展開しているという意味では、両者には共通している部分が多々ある。現在、白人の若者で、これほどのエナジーを持って、世の中の不満をぶちまけているバンドがいるであろうか?答えはノーである。現在、豊かさに毒され、ハングリーさが失われ、骨抜きになったバンドがなんと多いことか。いまやパワーのある音楽を奏でられる人たちは、こういったマイノリティーなのかもしれない。イスラム教を取り入れたハードコアという新しい思想は、どこか停滞気味のハードコア界に、新しい風を吹き込んでいるのだ。