Vermont Hardcoreバーモンド・ハードコア・シーンについて

 

全15バンドが収録された13年発表の『Vermont Hardcore: Past & Present. Vol. 2』では、メロディック・パンク・バンドのSink Or Swim(シンク・オア・スイム)から、ハードコアのGet A Grip(ゲット・ア・グリップ)、90年代ハードコアの12 Times Over(12タイムス・オーバー)、ライオット・ガール・シーンからの影響が強い女性バンド、Gorgon(ゴルゴーン)、パワーバイオレンスのThe Worst Five Minutes Of Your Life(ザ・ワースト・ファイブ・ミニッツ・オブ・ユア・ライフ)、クラストコアのBullshit Tradition(ブルシット・トラディッション)など、メロディック・パンクから、オルタナ、パワーバイオレンス、クラスト・コアにいたるまで、90年代以降、細分化した多種多様のジャンルのバンドたちが収録されている。

 

13年から現在にかけて活動している、日本語で<いちかばちか>という意味のSink Or Swim(シンク・オア・スイム)は、ネガティブな要素がまったくないスコーンと開き直った明るさのポジティヴな歌詞が魅力のメロディック・パンク・バンド。NOFXからDESCENDENTS(ディッセンデンツ)、BLINK 182(ブリンク182)を取り込んだシンプルでストレートなサウンドが魅力。急ブレーキのようなメロディーや、暴走するスピードについていけないギターなど、新しい試みにチャレンジし、メロディック・パンクをさらに進化させようとする姿勢がうかがえる。サウンドの整合性よりもオリジナルティーを追求する姿勢を重視し、若干暴走気味の青臭さがある。でもそこがこのバンドの魅力なのだ。
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近年BAD RELIGION(バット・レリジョン)、OFFSPRING(オフスプリング)、PENNYWISE(ペニーワイズ)、THE VANDALS(ザ・ヴァンダルズ)、BANE(ベイン)、TRIALなどのそうそうたるバンドたちと積極的にツアーを行い、バーモンド・ハードコアでも有名なGet A Grip(ゲット・ア・グリップ)。11年から17年かけて活動していたバンドで、COMEBACK KID(カムバックキッド)、GORILLA BISCUITS(ゴリラ・ビスケッツ)、HAVE HEART(ハヴ・ハート)から影響を受けた、メロディックなオールドスクール・ハードコア・サウンド。バンドアティテュードは、絶望からの立ち直りや、トラウマ、いじめ問題、政治への怒りに平等など、道徳的価値観を指標に掲げている。正義感にあふれた熱いバンドなのだ。
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97年から98年にかけて活動をしていた12 Times Over(12タイムス・オーバー)は、エモーショナル・ハードコアとニューヨーク・ニュースクール・ハードコア・スタイルの2作を発表し、解散したバンド。1作目の“12 Times Over Demo(12タイムス・オーバー・デモ)”はエモーショナル・ハードコアで、金属の火花のようなメロディーと、野太く武骨なギターに、なよなよしたボーカルが印象的な作品だった。翻って男らしく変わった2枚目の“Burning Inside 1996 EP(バーニング・インサイド1996EP)”では、90年代のニューヨーク・ニュースクール・ハードコアの要素を取り入れ、硬質なハードコアを展開していた。『Burning Inside(内側で燃える)』というタイトル通り、“Torn To Pieces(バラバラに引き裂かれた)”や“Don’t Tell Me (教えてはいけない)”、“For What is Right (正しいことのために)”など、内面の葛藤を歌った内容が多いバンドだった。
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女性3人で結成され、13年から15年にかけて活動をしていたGorgon(ゴルゴーン)は、Bikini Kill(ビキニ・キル)直系のハードコア・パンクなバンド。Gorgon(ゴルゴーン)とは、ギリシャ神話に出てくる醜い女性の3姉妹で、恐怖を司る怪物。ゴルゴーンのジャケットが象徴されている通り、歌っている内容は、男性や世間に対する直截的な怒りや、シャンプレーン湖の環境汚染、バーモンド州の真冬の憂鬱さなどのリアルな日常。“I Regret to Say I Can’t Attend the Funeral(葬式に参加できないと言って後悔している)”では、<生き急いで若く死ぬ>と歌い、“Street Talk(ストリート・トーク)”では、<あなたは私の外見を性的な目で見る。~私の見た目や体についてあなたの一方的な意見を望まない。>セクハラや価値観を押し付ける男たちへの怒りに満ちあふれている。男性に反発する怒りや闘争、生き急ぎ若く死ぬ人生観や自問自答など、ライフスタイルや精神性そのものがパンクなバンドなのだ。
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97年に結成され00年に解散し、13年から14年にかけて再活動をしていた、日本語で<あなたの人生の最悪の5分間>という意味のThe Worst Five Minutes Of Your Life(ザ・ワースト・ファイブ・ミニッツ・オブ・ユア・ライフ)は、バーモンド・コアでも珍しい、パワーバイオレンスを展開しているバンド。Spazz(スパッツ)のパワーバイオレンスを、よりノイジーに、より激情に、より激しく、進化したサウンド。うるさくカオティックなノイズのなかで、躁病のようにまくし立てる挑発的なボーカルが、このバンドの特徴。バーモンド・ハードコア・シーンのなかで一番過激な音を出しているバンドで、バーモンド・コアを代表するレーベル、Get Stoked! Records(ゲット・ストックド・レコーズ)のなかで一番古い歴史を持つバンドだ。
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10年から12にかけて活動をしていた、Bullshit Tradition(ブルシット・トラディション)は、Integrity(インテグリティ)と似た位置にいる、サタニックな要素が強いハードコア。DOOM(ドゥーム)のクラスト・コアをベースに、From Ashes Rise(フロム・アッシュズ・ライズ)やTragedy(トゥラジェディ)、ブラックメタルなどの叙情的なメロディーを取り入れたハイブリットなサウンドを展開している。ダウナーなサウンドで、戦争の恐ろしさや環境破壊による地獄模様、虐殺される動物などをサウンドで恐怖と静かに暗い陰鬱な感情を表現している。中心メンバーのDerek(デレク)自身もヴィーガン・ストレーエッジにして無宗教で、動物食や宗教が生み出す戦争や虐殺という負の部分を頑な否定し、穏やかな平和という姿勢を貫いている人でもあるのだ。
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出典:last.fm

 

Vol.1とは違い、この作品では90年以降の細分化したハードコア・シーンに呼応し、どのバンドも時代に合わせた多種多様なハードコアなサウンドを展開している。Vol.1のように、男くさい屈強なバンドこそVol.2では少ないが、その分、弱い部分やカッコ悪さを含め、ありのままの素の自分を素直にさらけだしたバンドが多い。思想面でもアニマル・ライツからヴィーガン・ストレートエッジ、フェミニズムにポリティカルと社会問題の提起、反戦争など、多岐にわたる。弱きを助け強きを挫く。そんな道徳的価値観を大切にしているバンドが多く収録されている。多種多様なハードコアのサウンド形式とハードコア精神。それがVol.2の魅力なのだ。

 

Vermont Hardcore: Past & Present. Vol. 2

Get Stoked! Records