ここでは1月に発売された写真集『TEXAS IS THE REASON:テキサス・パンクの異端者たち』を中心に、80年代のテキサス・ハードコア・シーンについて語りたい。
いままでニューヨーク、ワシントンDC、ボストン、デトロイトと、アメリカのハードコア・シーンを紹介してきたが、なかでもテキサスのシーンは一番独特なシーンといえる。その理由は、陸の孤島と呼ぶにふさわしい独自な進化を遂げてきたからだ。テキサス以外のシーンは、Black Flag (ブラッグ・フラッグ)やMinor Threat (マイナー・スレット)、Bad Brains(バッド・ブレインズ)などの、骨太なハードコア・サウンドを奏でるバンドたちが、お互いに交流し合いながら、影響をあたえ合ってきた。ハードコア・サウンドという根幹を堅持しながらも、その土地ならではの風土を加え、独自に発展を遂げてきた。
出典:PRESS POP
テキサスだけは、なぜかほかのシーンからの影響を受けることなく、独自な進化を遂げてきた。サウンドもハードコアのように骨太な重い音を奏でるバンドは少なく、西海岸はサンフランシスコのDead Kennedys(デッド・ケネディーズ)からの影響が強く、イギリスのポストパンクのような軽い音を中心に、色々なジャンルの音楽を取り込むバンドが多かった。リベラルな政治思想を掲げハイスピードなパンク・サウンドのMDC(ミリオン・デッド・コップ)から、パンクにブルースを合わせたThe Dicks (ザ・ディックス)、ファンクなリズムを取りいれたBig Boys(ビックボーイズ)、サイケなButthole Surfers(バットホール・サファーズ)など、パンクにプラスアルファな要素を加え独自に進化をしたバンドばかりだ。
この本は、当時テキサス大学でフォト・ジャーナリズムを学んでいたパット・ブランシルが撮影したテキサス・ハードコア・シーンの、生々しい現場を記録した写真集である。撮影されたアーティストは、Big Boys(ビック・ボーイズ)、The Dicks(ザ・ディックス)、Butthole Surfers(バッドホール・サーファーズ)、Poison 13(ポイズン13)、The Hickoids(ザ・ヒッコイドス)、The Offenders(ザ・オフェンダーズ)、Scratch Acid(スクラッチ・アシッド)、Daniel Johnston(ダニエル・ジョンストン)、Doctors’ Mob(ドクターズ`・モブ)、Glass Eye(グラス・アイ)といったバンドたち。ほとんどが、テキサス州でも比較的リベラルな(ほかの州と比べるとかなり保守)土地である、オースティンで撮影された。
出典:BazillionPoints
テキサス州オースティンで活動する映画監督のRichard Linklater(リチャード・リンクレイター)から、Scratch Acid(スクラッチ・アシッド)/ The Jesus Lizard(ジーザス・リザード)/ flipper(フリッパー)のシンガー、David Yow(デビット・ヨウ)、心理療法士のDonna Rich(ドナ・リッチ)、現在ロサンジェルス在住で俳優のAdriane”ASH”Shown(エイドリアン・“アッシュ”・ショウン)らが執筆し、テキサスで経験した嫌な思いや、当時の社会状況などを通じて、テキサス・ハードコア・シーンについて語られている。当時テキサスでは、厳格なキリスト教の教えに基づき、人種差別や性差別、同性愛を嫌悪する保守主義な空気が社会全体を支配していた。テキサスとは、カウボーイに代表されるアメリカの保守の象徴ともいえる土地で、もっともアメリカらしい場所だと、この本で語られている。
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テキサスのハードコア・シーンとは、保守主義への反発であり、差別や弾圧を受けた虐げられた者たちの輝く場所。保守主義のヘドロのような汚い部分を、表面化したシーンなのだ。体育会系でマッチョな不良たちがバイオレンスに暴れた各地方シーンとは、成り立ちがあまりにも異なるのだ。
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