Vermont Hardcoreバーモンド・ハードコア・シーンについて

 

全17バンドが収録された18年に発表の『Vermont Hardcore: Past & Present. Vol. 3』では、2010年以降に活動しているバンドたちを集めた。Jesus Piece(ジーザス・ピース)やCODE ORENGE(コードオレンジ)からの影響が強く最先端のハードコアを追求しているMisanthrope(ミザントロオプ)から、メタルコアやスクリーモなどを融合したReverser(リバーサ)、BLACK FLAG(ブラッグ・フラッグ)やKILL YOUR IDOLS(キル・ユア・アイドルズ)などのオールドスクールなハードコアから影響を受けたThe Path(ザ・パス)、ファストコアのScreaming Skull(スクリミーング・スカル)、クラストコアのGorcrow(ゴークロウ)、ドゥームメタルのHellascope(ヘラスコープ)、フォークの実験的サウンドZodiac Sutra(ゾディアック・スートゥラ)とNoodle(ヌードルズ)と、ストナーロックからドゥームメタル、アコースティックにいたるまで、ハードコア以外の音楽を展開しているバンドが多く収録されている。

 

日本語で人間不信という意味のバンド名であるMisanthrope(ミザントロオプ)は、16年から18年にかけて活動をしていたエクスメンタル・ハードコアと呼ばれているバンド。初期CODE ORENGE(コードオレンジ)やJesus Piece(ジーザス・ピース)などのバンドに影響を受けた、ダウナーでゆったりとしたスローテンポのリズムのダウナー系ノイズ・ハードコア。骨だけになった動物の死骸のアルバムジャケットが象徴している通り、歌詞は、死の願望や人間不信といった内容が多く、鬱で暗く絶望感に満ちている。コンヴァージ以降の世界観を意識したサウンドで、バーモンド・ハードコアのなかで、最先端のサウンドを追求しているバンドなのだ。
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Reverser(レバーサ)は、Slipknot(スリップノット)などのバンドから影響を受けたヘヴィーメタル&ニューメタルを展開しているバンド。歌詞は“Born Again (再び生まれる)”や“Flip The Hearse(霊柩車が横転する)”といった死後の世界を意識した内容が目立ち、死の恐怖よりも神秘さに満ちている。激しいヘヴィネスなサウンドにスピリチュアルな神秘さを散りばめたバンドなのだ。
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The Path(ザ・パス)は、BLACK FLAG(ブラッグ・フラッグ)やKILL YOUR IDOLS(キル・ユア・アイドルズ)などのオールドスクールなハードコアから影響を受けたバンド。15年から16年にかけて活動をしていたバンドで、反ナチスと環境保全をバンド・ポリシーに掲げ、クエンティン・タランティーノの第二次世界大戦を描いた映画「イングロリアス・バスターズ」にインスパイヤ―された<100人のナチスの頭皮>や<ファック・ナチ・シンパシー >などの反ナチスを歌った歌詞と、<クマを狩って子供たちに食べさせて>や<土を毒し、這い出てくる生き物に名前を付けよう。我こそ神だ!>などの環境破壊について歌った歌詞がある。オールドスクールなサウンドではあるが、ファッションやアティテュード、すれた金切り声の怒声、終始ハイテンションな音の出し方などの感覚的な部分で、いまどきの若者らしいセンスを感じるバンドでもあるのだ。
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13年から18年にかけて活動をしていた、日本語で叫ぶ骸骨という意味のScreaming Skull(スクリーミング・スカル)は、ファストコアから、Slapshot(スラップショット)に影響を受けたオールドスクール・ハードコア、FLIPPER(フリッパー)のようなエクスペリメンタル・ハードコアまで、いろいろな音楽性を試し、オリジナルティーを追求しているバンド。それにしても女性ボーカルDanielle Allen(ダニエル・アレン)の激しい絶叫のなかに感じる、尋常でない怒りはすごい。警告音のようなサイケデリックなギターと激しさが混ざり合い、怒りと陶酔が同時に襲い掛かる独特な奇妙な世界観を作り出している。作品を発表するごとに成長のあとが伺え、将来性の高い有望なバンドだ。
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14年から19年にかけて活動をしていたGorcrow(ゴクロウ)は、ポスト・ハードコアにとクラストを取り入れたバンド。ボーカルの怒声からはG.I.S.M(ギズム)、ポスト・ハードコアのサウンドスタイルからはenvy(エンヴィー)などの日本のバンドからの影響を強く感じる。バーモンド州の大自然の深い緑に囲まれた山々を想起させるサウンドで、そこにはまるで映画『ツインピークス』のような、深淵な森のなかに潜む狂気と恐怖を感じさせるサウンドだ。ヘヴィーな激しさにある雄大な大自然の怖さと狂気。それがGorcrow(ゴクロウ)の魅力なのだ。
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20年から現在にかけて活動しているZodiac Sutra(ゾディアック・スートゥラ)はエクスペリメンタルなサウンドのバンド。サイケディックミュージックを中心に、牧歌的なフォークからデスメタル、インストゥルメンタルまで、幅広い音楽性を展開している。60年代のサイケデリックなノスタルジーとカントリーサイドな要素を加えながら、宇宙などの神秘的な要素を散りばめ、懐かしさかきたてるような手作り感あふれる温かみのある味わいを演出している。ノスタルジアというより、どこか垢抜けない朴訥さが彼らの個性だろう。全バンドのなかで一番バーモンドらしさを感じながらも、バーモンド・ハードコアなかではかなり珍しいサウンドを展開しているバンドだ。
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日本語で<地獄のような景色>という意味のHellascope(ヘラスコープ)は、Saint Vitus(セイント・ヴァイタス)とBlack Sabbath(ブラックサバス)からの影響が強い、ドゥーム・メタルとストナーロックを合わせたバンド。17年から19年にかけて活動をしていたバンドで、悪魔崇拝にダウナーで絶望感に満ちたサウンドを展開している。“Unholy Rebirth(不浄な再生)”では、<地獄の怒りが解き放たれる サタンの指揮下>と歌い、“Ancient Mysteries(古代の謎)”では、<倒錯、魔術>といった歌詞がある。全体的に呪術的で、悪魔崇拝的な内容が多く、自己不信に陥るような無気力で退廃的な絶望感に満ちている。アッパーで闘争的なバンドが多いバーモンド・ハードコア・シーンでは、真逆のスタンスのバンドは彼らだけではないか。かれらもまた特有の個性を持ったバンドといえるだろう。
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Vol.3ではハードコアと呼べるバンドは少なかったが、サウンド的に個性的なバンドが多かった。やはり2010年以降に結成されたバンドが多いためか、音楽ジャンルのボーダレス化というか、ハードコアにこだわりをもったバンドが少なかった。好きな音楽を自由にやっている姿勢と、死の世界や神秘主義、悪魔崇拝など、ネガティヴな価値観も、Vol.3では目立った。だがサイケデリック・フォークからドゥームメタル、ストナーロックにいたるまで、多種多様な音楽が楽しめたのも事実。みんな好きに自分のやりたいことをやっている姿勢がよかった。闘争的でハイテンションなバンドこそ少なかったが、これもまたバーモンド州の、新世代の趣向の変移がはっきりと分かった作品だった。

 

バーモンド・ハードコア・シーンとは、都会の新しい価値観やライフスタイルに憧れ、始まったシーンであることに間違いはない。これほど小規模な地域のシーンなのに、いまだに継続して続いている部分においては、ほかの地域よりも継続していく粘り強い持続力を感じる。なによりバーモンド・ハードコア・シーンを盛り上げようと、バンドをサポートしているレーベルの熱意をものすごく感じるのだ。演奏力や録音状態が悪く、完成度の低いバンドも多く存在するが、どのバンドもお金や名声の為でなく、自分の気持ちを素直に伝えたいという純粋さと情熱を感じる。まるで真冬の空気のような透明度と純粋さだ。多彩な音楽ジャンルのバンドが多かったバーモンド・ハードコア・シーンだが、細分化や孤立化や敵対化が起こらず、ひとつにまとまっている印象を受けた。それでいて、バーモンド・ハードコア・バンド同士の影響はあまり感じられない。それもまた特徴といえるだろう。そして美しい大自然に囲まれた土地のせいなのか、環境破壊に対して過敏になっているバンドが多かった。環境保全活動を推進しようという歌詞と、行動に訴えたバンドが多く、美味しい水が汚染されたり、冬の温かさや雪の少なさなどを身近で実感すると、危機的な気分になるのかもしれない。大自然の魅力がリアルに反映されたサウンドが、バーモンド・ハードコアの最大の特徴といえるだろう。

 

Vermont Hardcore: Past & Present. Vol. 3

Get Stoked! Records